第18章 松月
『ボス、ソイツから離れてください』
『!?』
『ランスキー…』
少しざわつく会場。
『あとは任せたぞ、ランスキー』
『はい』
『誤解だ、ボス!俺は裏切ってなんか』
『動くな』
『てめぇ、弟のためなら何しでもいいと思ってんのか!腐れ外道!』
『金のためなら何でもする外道だって、元からわかってただろ?』
『ぶっ殺す!!』
劇場な空気が変わったのが、はっきりとわかった。
すっかりと秋組の雰囲気にのまれ、会場の熱がまた上がる。
…凄いなって、ただ思った。
「迫田さんに、ピストル頼んでくる」
「え、…あ、うん」
隣にいたいづみちゃんが、動き出す。
「支配人、迫田さんをしりませんか!?」
「え!?あ、迫田さんなら、関係者席に…」
その背中を目で追うしか出来ない。
私には、何も…。
「…」
「…さん?」
いつの間にか唇を噛んでたせいで、口の中に鉄の味が広がる。
「芽李さん!!」
「っ、」
「どうしたんですか?」
支配人が、心配そうに私を見つめる。
「ううん。何でもないです、みんな凄いなって思って」
「そうですか、」
怪訝そうな顔をこれ以上させるわけにはいかないと、笑顔を貼り付ける。
「少し早いですけど、私、寮に戻りますね」
「え?」
「みんな、衣装の手直しも、小道具が無くても、今日頑張ったから、労いも込めて、ご馳走沢山用意したいので」
支配人の顔がパァッと明るくなる。
「支配人の好きなものも作りますね!寮で、待ってます」
「みんな喜ぶと思います!」
チクッと胸が痛んだ。
みんなの為を言い訳にして、嘘をついたようなものだからか。
笑顔を貼り付けて逃げ出すように、劇場を出る。
秋の季節に似つかわしくないほど、空は重く酷い曇天だった。
いっそのこと、雨が降ってくれればいいのに。
「芽李ねぇちゃん!」
俯き歩いていると、後ろから声がした。
その声に振り返る。
「咲…」
「どこいくの?」
私に追いついて、隣に並ぶ。
「あ…うん、買い物。秋組のみんな、今日頑張ったでしょ?だから、労いも込めて今日はご馳走にしてあげようって思って」
「そっか」
私の歩幅にあわせて、ゆっくりと歩いてくれる。
何か聞いてくるかと思ったのに。