第18章 松月
無事に終わると思ってた。
切り裂かれた衣装も幸くんや万里くんを中心に、元通りとまではいかなかったかもしれないけど、綺麗に直すのだって頑張ったし。
…そんな、秋組旗揚げ公演の3日目。
「監督、芽李さん!大変です!」
「どうしたの?」
「支配人?」
慌ただしく、走って来た支配人。
「とにかく、楽屋へ」
あきらかに緊迫した様子に、胸が騒ぐ。
そのせいか、楽屋までの道がすごく長く感じる。
先頭を走る支配人が、ドアを開けた。
「やべぇな……」
「よりによって、公演中かよ」
「みんな、何があったの?」
冷静に聞く監督に、左京さんが答える。
「小道具のピストルがなくなった」
その瞬間、キーンっと耳鳴りがする。
私のせいかもしれない、そう思ったら冷や汗が流れた。
どうしよう、あの人のせいだったら。
フラッシュバックする、あの日見せられた咲の写真達。
幼少期のこと。
あぁ、どうしよう。
みんなが何をはなしてるのか、ちゃんと耳に入ってこない。
どうしよう…。
「もうすぐ休憩終わります!」
支配人の焦った声で、ハッとする。
「とにかく舞台を開けるわけにはいかねぇ。出るぞ」
「っす、」
「くそ、やるしかねぇか」
「そうだな…」
焦りつつも、舞台に立とうとする秋組のみんなに、申し訳なさと、ここで言わなきゃいけないと思いながら、ずるい私はそれを口にすることができない。
大好きなみんなのお芝居の邪魔をしてしまっているのは、私かもしれないのに。
こんな時なのに私は自分のことばかりで、気づかなかった。
見落としてしまった。
「…」
小さな影を…。
ーまもなく開演いたします。ご着席になり、お待ちください。
休憩がおわり、幕が開く。
『ルチアーノ、お前が裏切っていたとはな』
出るはずじゃない場面で、左京さんが出たことによって、空気が張り詰める。
よくないことが連鎖しそうで怖い、こうしてる間にも何かできることがあるはずなのに、うまく頭が動かない。
「…俺に、任せてくれねぇか?」
凛とした声が、耳に届く。
「え?でも、十座くんの出番はまだ後だし、それにピストルが」
いづみちゃんが言いかけた時にはもう、十座くんはそのライトのしたに堂々と出ていた。