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3月9日  【A3】

第18章 松月


 無事に終わると思ってた。
 切り裂かれた衣装も幸くんや万里くんを中心に、元通りとまではいかなかったかもしれないけど、綺麗に直すのだって頑張ったし。

 …そんな、秋組旗揚げ公演の3日目。

 「監督、芽李さん!大変です!」
 「どうしたの?」
 「支配人?」

 慌ただしく、走って来た支配人。

 「とにかく、楽屋へ」

 あきらかに緊迫した様子に、胸が騒ぐ。
 そのせいか、楽屋までの道がすごく長く感じる。

 先頭を走る支配人が、ドアを開けた。

 「やべぇな……」
 「よりによって、公演中かよ」
 「みんな、何があったの?」

 冷静に聞く監督に、左京さんが答える。

 「小道具のピストルがなくなった」

 その瞬間、キーンっと耳鳴りがする。
 私のせいかもしれない、そう思ったら冷や汗が流れた。

 どうしよう、あの人のせいだったら。

 フラッシュバックする、あの日見せられた咲の写真達。
 幼少期のこと。

 あぁ、どうしよう。

 みんなが何をはなしてるのか、ちゃんと耳に入ってこない。
 どうしよう…。

 「もうすぐ休憩終わります!」

 支配人の焦った声で、ハッとする。

 「とにかく舞台を開けるわけにはいかねぇ。出るぞ」
 「っす、」
 「くそ、やるしかねぇか」
 「そうだな…」

 焦りつつも、舞台に立とうとする秋組のみんなに、申し訳なさと、ここで言わなきゃいけないと思いながら、ずるい私はそれを口にすることができない。
 大好きなみんなのお芝居の邪魔をしてしまっているのは、私かもしれないのに。
 こんな時なのに私は自分のことばかりで、気づかなかった。
 見落としてしまった。

 「…」

 小さな影を…。
 ーまもなく開演いたします。ご着席になり、お待ちください。
 休憩がおわり、幕が開く。

 『ルチアーノ、お前が裏切っていたとはな』

 出るはずじゃない場面で、左京さんが出たことによって、空気が張り詰める。
 
 よくないことが連鎖しそうで怖い、こうしてる間にも何かできることがあるはずなのに、うまく頭が動かない。

 「…俺に、任せてくれねぇか?」

 凛とした声が、耳に届く。

 「え?でも、十座くんの出番はまだ後だし、それにピストルが」

 いづみちゃんが言いかけた時にはもう、十座くんはそのライトのしたに堂々と出ていた。
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