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3月9日  【A3】

第18章 松月


 服を着替えて、リビングに迎う。

 「おはよう、芽李ちゃん!片付けありがとう」

 食器を下げながら、少し慌てていづみちゃんが言う。

 「あ、ううん。ごめん、起きるの遅くなった」
 「何言ってんの、1番最後に寝たんでしょ?仕方ないし、ご飯も用意しててくれたから、むしろ助かったよ。
 いつもありがとう、今日もおいしかったよ」

 フワッと笑ったいづみちゃんごしに、真澄くんと目が合う。

 「あは、…うん。そう言ってくれて嬉しいナー…」

 般若の面のような真澄くんの顔に、いづみちゃんは気づかないまま作業を進める。

 「芽李ちゃん、ちょっと今日は忙しくなるかも。かなりヘルプ頼んじゃうけど大丈夫かな??」
 「もちろんだよ!じゃんじゃん使って!監督!!」
 「元気いっぱいだね、よし!私も頑張る!」
 「うん!」

 そうそう、気持ちを切り替えないと。
 ゲネもなしに、今日はあっという間の初日だ。

ーーーー
ーー

 裏方でバタバタと動いているうちに、支配人の声が聞こえてくる。

 ざわざわとした会場、始まりの春よりも、駆け抜けた夏よりももっと、会場の熱が熱い気がした。
 やっぱり、左京さんの言ってた通り期待値もばくあがりなんだろうな。

 「そろそろ、幕開くって!」

 幸くんの声に、返事をして自分の担当場所へと着く。

 ブーっとブザーがなって、シーンとした会場に十座くんの声が響き渡る。

 『話ってなんですか、ボス』
 『ルチアーノ、ランスキー、お前ら2人でコンビ組め』
 『嫌です』
 『そりゃ、俺の台詞だ!』

 トントンと肩を叩かれ、振り返る。

 「あ、いづみちゃん」
 「お疲れさま、」
 「うん、いづみちゃんも。なんか、秋組のみんなテンション高いね、」
 「私も同じこと思ってた」

 2人とも視線は舞台から外さないまま、コソコソと話す。

 『うるせぇ!子供じゃねぇんだから、ごちゃごちゃ言ってねぇで、さっさと仕事いけ!』

 カポネの声に、胸が躍った。
 あの春の日を思い出した。

 ぐっと、来てしまった。

 まだ始まったばかりだと言うのに。

 「寝不足がいい感じに仕事してくれたかな?」
 「かもね、今日は秋組みんなの好物つくってあげないと」
 「そうだね」

 このカンパニーの、想いが、熱が、大好きだ。
 そう、改めて思った。
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