第18章 松月
「…芽李、起きな」
ぽんぽんと、優しく肩をさすられる。
「ん…」
目を開けて、1番最初に飛び込んできたのは、至さんの優しげな顔。
あぁ、そっか。
昨日あのまま寝ちゃったんだと、寝ぼけた頭で思った。
…ん?
あのまま?
ばっと飛び起きると、コツンと至さんの頭とぶつかる。
「った、」
「ご、ごめんね!大丈夫??」
「芽李こそ」
「大丈夫」
自分のおでこを擦りながら、答える。
「…ふ、ははは」
至さんが笑う。
「な、なに?」
「ちょっと涙目でかわいいなって、思っただけ。朝から元気そうでよかった。
俺の膝枕は、どうでした?」
身体中の体温が、顔に集まったかのように熱くなる。
至さんとの間に流れた、空気が甘いからだ。
「定評通り、寝心地最高でした」
「そう、よかったね」
恥ずかしいのを隠して必死で言ったのに、余裕綽々な至さんはまた爽やかに笑った。
「なに、むすっとしてどうしたの?可愛い顔してたのに」
「至さんってば、いっつも余裕でずるい」
一瞬、空気が止まる。
あれ、どうしたんだろう?
ートントン
至さんのドアが叩かれて、一瞬にしてそれに気を取られる。
「すみません、至さん。おきてますか??」
外からは綴くんの声。
前もこんなことあったなって、思いながら返事もしないでフリーズしてる至さんを見る。
「至さん?」
「…ん、あぁ」
やけに悲しそうに見えて、それがすごく引っかかったのに、至さんは立ち上がってドアを開けに行く。
「おはよ、綴」
「芽李さん、こっちに来てませんか?部屋、いなかったので」
「いるよ、よくわかったね」
「まぁ、長い付き合いになって来ましたからね。
そろそろ会場準備始まるんで、至さんもですけど、呼びに来ましたって芽李さんに伝えてください」
「うん、すぐ行く」
綴くんが、去っていくのを足音を聞いて感じた。
「…だって、芽李行こっか」
「うん」
振り向いた至さんは、いつも通りの顔で、なんだいつも通りじゃんなんて、安心してしまう。
「部屋戻る?」
「うん。着替えてから行く」
「そうだな、俺も着替えてからむかうよ」
いつも通りだと思った。
悲しく笑ったのも、気のせいにして。