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3月9日  【A3】

第17章 琴平


 「至さん、離れよっか?」

 離してたまるか。

 「ほら、芽李さんも、言ってるじゃん」

 幸の呆れた顔は見慣れてる。

 「えー、」

 そんな顔したって、俺は譲らない。

 「えー、じゃない。微妙に体重かけてきて重い」

 ぽんぽんと、腕を叩かれる。

 「ガキかよ」

 ガキでもなんでもいいんだよ。
 芽李のことに関しては、本当に誰にも譲りたくない。

 「"中学生"の幸には言われたくありませーん」

 中学生の幸にですら、俺は嫉妬するんだから。
 それでも、少しちくっとした空気を感じて、少しの罪悪感を感じる。

 「芽李〜、至さん疲れたから我が城までそのまま運んでぇ」

 だから、せめてもの免罪符。

 そうやっておどけてみせたところで、今更変わらないかもしれないけど。

 「はぁ?」
 「いいから、運んでぇ。この際幸でもいいからさぁ。20代男性に、オールはきついってぇ」

 余裕のないヤキモチに対する、免罪符だ。

 「…付き合ってらんない。っていうか、オレこんな大人にはならない」
 「反面教師」

 2人の散々な言い草はごもっともだけど、

 「至さん、アンパンにワンパンされてヘロヘロになるバイキンの気分、ことばの暴力によってHPマイナス」

 のしっと、余計体重をかける。

 芽李は、俺の好きなひとだから。
 俺の大人気ないヤキモチに"根負けしてくれた"のか。
 なんて、都合のいい解釈。

 "呆れたふり"で立ち去ろうとする幸を、引き留める。

 「幸」

 牽制。

 「なに、」
 「ごめんな」

 大人気ない俺。
 数秒止まって、幸は半身で振り返った。

 「そうやって、余裕こいてなよ。絶対、奪ってみせる」

 ニヤッと不敵に笑って、去っていく背中にそんなこと絶対させないなんて誓ってみせた。

 「なんの話?」

 芽李は、そうやって言うけど本当にわからない?

 「さぁ?」

 なんて、とぼけるのは俺も一緒か。

 「幸ってさ」
 「ん」
 「かっこいいやつだよな」

 だから、渡したくないって話。
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