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3月9日  【A3】

第17章 琴平


 「ブサイク」

 やばい、やり取り聞いてなかった。
 クソ、聞いてないうちにもっと良い雰囲気になってたら大変だって。

 幸はまだ中学生だけど、あと10年も経てば絶対いい男になるわけだ。
 育成ゲームしかり、それって結構焦る。

 「……さて。さっさと終わらせて、早く休も。カントクも言ってたでしょ、体最優先って」

 ハイハイ、このタイミングね。
 俺も手伝うよーっつって出てけばいいわけだ?

 「っ、」

 動き出した衝撃が足に来て、声にならない悲鳴をあげる。

 このタイミングで攣ったのだ。

 変な体制で潜んでいたせいで、しゅばっと出ていきたい場面だったのに、足を攣ってしまったというわけだ。

 年か、疲れか、運動不足か…。

 「2人だと案外早く終わったね」

 見えない分、彼女と幸の距離感に俺のモヤモヤは増すばかり。
 サラッと登場してサラッと帰ろうと思ったのに。

 攣った部分の痛みを、ヤキモチで紛らわせながらストレッチをし、治る頃には片付け終わっていたらしい。

 「芽李さんがほぼ終わらせてくれてたし、みんなでやったらもっと早かったかもね」
 「うっ」
 「ふふ、けどさ」

 あ、コレはダメなやつ。
 本能的に動きだす。


 「…そう言う芽李さんの、意地っ張りで優しいとこ、オレ」

 ぐいっと彼女の腕を引いて、胸元に収める。
 
 「はーい、ストップ」

 いくら幸でも、それ以上は言わせない。
 いや、幸だからこそ言わせない。

 「どこから湧いて出たの、インチキエリート」
 「幸が入ってきたところからずっとそこでスタンバッテ………って、言うのは冗談ですが」

 ガチでひく、と幸の顔が歪む。
 あながち冗談でもないけど。

 「悪趣味変態インチキストーカー」
 「まって、幸くんそれエリートっていう唯一のいいとこ消えてる」
 「唯一って、ひど」

 大人気ないと思いながらも、抱き締めるのをやめるつもりもこの腕を緩めるつもりもない。

 「顔もよかった」
 「他にないわけ?」
 「…」
 「…」
 「悩むな、悩むな」
 「てか、それはどーでもいーけど。離せば?」

 所謂牽制である。

 「なんで?」
 「なんでって、………」

 幸にしたら、今の俺なんて最大の邪魔者なんだろうけど。
 なんでもクソもないだろうけど。
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