第17章 琴平
side 至
気がかりだった事があったはずなのに、さっきまでの寮内のバタバタで、それすらも忘れてしまった。
布団に入り就寝前に5分だけと思い、取り掛かったゲームは思いの外面白くて、結局寝る間も惜しんでやってしまっている。
喉が渇いて、部屋から出てキッチンへと向かう。
床は少し冷たかった。
いつもならスリッパを履くのに、めんどくさがって履かなかったせいだ。
談話室の方から、聞こえてきた声に初めはさっさと飲み物を取って退散しようと思ったのに、何故か俺の足は止まり、する必要もないのに体制を低くし、扉の影へと潜んでしまったのだが…。
「カンパニーの、衣装係はオレだから芽李さんが何言わなくても、オレだってカントクに直談判してたよ」
タイムリーな話と、鼻を啜る音。
それで気がかりの正体は、これかと思い出した。
芽李はやっぱり泣いてるのか、話的には幸が慰めているようだけど…。
「今回のことは、…間に合ってよかったって思うことにする」
幸の衣装あの状態になったの見て俺だってかなりの衝撃をうけた。
芽李は泣くと思ったのに、今回は表情にすらあまり出さずにいたもんな。
それが、少しばかり気がかりだった。
時間差で、今泣いてるってことか。
…俺は、間に合わなかったわけだ。
芽李の涙に。
「…」
…正直、クソ悔しいんだが。
幸の間に合っては、衣装に関してだろうけど。
「それに、オレのじゃなきゃダメって芽李さんが言ってくれたから、そうやってオレのために泣いてくれたから、……まぁ、役得かな。なんてね、」
声だけでも良い雰囲気、良い距離感になってるのは見なくてもわかる。
俺は芽李に関しては、心が狭い節があるので、めちゃくちゃ邪魔したい。
この良い雰囲気すごくぶち壊したい。
ムードクラッシャーたるち、いきます!ってやりたい。
などという思いはもちろんあるが、今回は幸も大変だったし少しばかり譲ってやろうと、謎の余裕をかましてみせる。
だけど本当に、…少しだからな。
むすっとしたいところだが、俺は大人なのでしません。
超偉い。