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3月9日  【A3】

第17章 琴平


 部屋について、珍しく片付けてあるソファの上に至さんが座る。

 ちなみに、ソファ以外は相変わらずものが多いけど。

 ぽんぽんっと膝を叩いて、まさかそこに座らせる気?と眉を顰め、とりあえず隣に座る。

 「ちぇー」
 「ちぇーってなに?」
 「残念に思った時のオノマトペ」
 「そこに座る勇気はないよ?」
 「至さんの膝、なかなかの触り心地よ。知らんけど」
 「しらんのかい」

 そっと肩に腕が回る。

 「な、なに、」
 「ありゃ、警戒モード発令中?ロック解除してー」

 と、言葉の割に優しく触れてくるから逆に怖い。

 「膝枕」
 「は?」
 「至さんのターンっていったでしょ」

 少し強引に寝られる。

 「足、下ろしとくより肘置きくらいにおいた方が寝心地いいんじゃない?
 このソファの寝心地、万里にも定評あるからいいと思うよ」
 「なんのつもり??」
 「子守歌もオプションでつけられますがいかがいたしますか?」

 ぽんぽんと、一定のリズムで頭を撫でながら聞いてくる。
 私の頭は至さんの膝の上。
 見ての通り、俗に言う膝枕だ。

 「なんの、曲」
 「おすすめは、ナイランかなー」
 「じゃあ、それで」
 「ほら、目とじないと。寝れないでしょ。せっかくの至さんのイケボ満喫しなよ」
 「たまにナルシはいるよね」
 「イケメンだからいいんだよ」

 そっと瞼あたりに手を乗せる至さん。
 あったかくて、いいアイマスクみたいだ。

 みみには、至さんの鼻歌が聞こえてくる。

 だんだんと眠くなってくる。
 瞼を閉じてしばらくするとそっと手が移動して、またゆっくりと頭を撫でだす。

 その感覚がまぁいい感じで、いつも通りすっかり至さんのペースにのせられて、甘やかされて、

 ふつんっと、

 張り詰めてた糸が、切れたみたいな感覚。
 もう、良いんだってどこかで思った。

 至さんの手は安心する。
 落ち着く。

 だから、至さんに起こされるまで、我ながら不覚なんだけど、すっかりと寝てしまっていた。

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