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3月9日  【A3】

第17章 琴平


 「カンパニーの、衣装係はオレだから芽李さんが何言わなくても、オレだってカントクに直談判してたよ」

 ぽんぽんと、あやされてしまってはいよいよ、どっちが年上かわからない。

 「今回のことは、…間に合ってよかったって思うことにする」

 決意するように、力のこもった声で言ったかと思えば、今度は優しい声になる。

 「それに、オレのじゃなきゃダメって芽李さんが言ってくれたから、そうやってオレのために泣いてくれたから、……まぁ、役得かな。なんてね、」

 そっと体温が離れる。

 「大丈夫だから、オレは。こんなの、なんでもない」

 真剣な目と、あう。

 「経験になった。だから、芽李さんももう泣く必要ないよ。
 月並みなこと言うと、オレやっぱりアンタが笑ってる顔の方が見たいし、バカみたいに笑っててよ」

 むにっとほっぺをつままれて、口角を上げさせられる。

 「むぐっ、」
 「はい、笑え」
 「ふ、」
 「ブサイク」
 「ひど」
 「……さて。さっさと終わらせて、早く休も。カントクも言ってたでしょ、体最優先って」

 またパッと手が離れて、幸くんが立ち上がる。
 釣られるようにして、私も片付けにもどる。

 ハギレは幸くんに手渡して、ミシンもまたあった場所に戻して。

 「2人だと案外早く終わったね」
 「芽李さんがほぼ終わらせてくれてたし、みんなでやったらもっと早かったかもね」
 「うっ」
 「ふふ、けどさ。…そう言う芽李さんの、意地っ張りで優しいとこ、オレ」

 ぐいっと腕を引かれる。
 すっぽりと収まりがいいのは、この彼のうでに抱きしめられることにすっかり慣れてしまったからか。

 あったかくて、おちつく。

 「はーい、ストップ」
 「どこから湧いて出たの、インチキエリート」
 「幸が入ってきたところからずっとそこでスタンバッテ………って、言うのは冗談ですが」

 ガチでひく、と幸くんの顔が歪む。

 「悪趣味変態インチキストーカー」
 「まって、幸くんそれエリートっていう唯一のいいとこ消えてる」
 「唯一って、ひど」
 「顔もよかった」
 「他にないわけ?」
 「…」
 「…」
 「悩むな、悩むな」
 「てか、それはどーでもいーけど。離せば?」
 「なんで?」
 「なんでって、………」

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