第17章 琴平
顔を上げられないまま、答える。
「オレはさっき目が覚めて、喉乾いたからお茶取りに来た」
「そっか」
できるだけ、声を振るわせないように。
「…泣いてる?」
「なんで、泣くの。そんなわけないじゃん」
「…そんなボロボロの端切れなんて拾い集めて、何してんの」
「だから、片付けだって」
近くに幸くんがしゃがむ。
「なら、オレも手伝う」
「いいって、」
きゅっと、落ちてる布を拾おうとした時ぷすっと指に刺さる感覚でやってしまったと気付く。
「っ、」
「何やってんの、バカ」
「なんでもない」
「…はぁ。ちょっと待って」
幸くんが立ち上がって、絆創膏の箱と消毒を持ってくる。
「ほら、手だして」
「このくらい、大丈夫だから、」
「まだ使えそうなハギレアンタの血で汚す気?」
「…ごめん」
少し強引に手を掴まれる。
「嘘つき」
「な、コレはさっき刺したのが痛かったからで」
「ふ〜ん」
すこしだけ、消毒が沁みる。
「…芽李さんは、そうやって泣くんだね」
「え?」
「意地っ張りで、ツンツンする感じ?」
「…」
「本当に悔しい時に泣いてるとこ、見られるの嫌なの…オレも一緒だからわかる」
優しく、丁寧に絆創膏を貼ってくれる。
「強がっちゃってさ…って、芽李さんはオレのために泣いてくれたんでしょ」
そっと、幸くんの手が離れる。
「ありがとね」
お礼を言わなきゃいけないのは私なのに、余計に涙を誘うようなこと言うから。
ポロポロと抑えキレずによけい涙が零れて行く。
「ごめん、ごめんね、幸くん」
「ん?」
「わがまま言ったし、結局1番大変なのは幸くんやいづみちゃんや万里くんで、支配人も大変だったけど、結局私何もできなかった」
大人なのに情けない。
「大切に作ったの、こんなになったら苦しいよね、それなのに私が先に泣いて、情けない」
「…オレはまだガキだからさ、上手く言えないけど」
フワッと幸くんの香り。
ぎゅっと体温が伝わる。
「すごく悔しかったし、ありえないって思った。めちゃくちゃムカついて腹もたった」