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3月9日  【A3】

第17章 琴平


 「こっち完了。そっちもやっても大丈夫??」
 「完璧、うん!お願い」


ーーーーーー
ーーー

 作業は、夜通しどころか、本番の数時間前にようやく終わった。

 「で、できた…!」

 いづみちゃんの一言で、みんなも一息つく。

 「急いで試着して確認して」

 その指示で、秋組のみんなが動き出したのをみて、私はキッチンに戻る。

 「…大丈夫だ」

 片付けは、みんなが休んだ後にチャチャっとしよう。
 
 「問題なし!さすが俺!と、幸!と、」

 万里くんの声、

 「今回だけは認める」

 十座くんの声、

 「直したところも、よく見ねぇとわからねぇな」

 左京さんの声、

 「近くで見ると気付くけどね。観客にはバレない」

 幸くんの声、

 「それで十分だよ!幸くん、おつかれさま!」

 いづみちゃんの声。

 「……」
 「太一くん?衣装は大丈夫だった?」

 聞きながら、手を動かす。

 「ーあ、あぁ、大丈夫ッス」

 きゅっと、蛇口を捻った時に、弱々しく聞こえたのは太一くんの声。

 「おい、七尾、お前…」

 探るような左京さんの言葉に、なぜか私の肩がはねる。
 
 「太一、調子悪いのか?本番まであと数時間あるし、少しでも仮眠とった方がいいぞ」
 「ーー」
 「ほら、いくぞ」
 「あ、う、うん」

 ふと浮かんだ違和感の正体に、気付くことすらできずに、臣くんが太一くんを連れて談話室を出ていく。

 「…」
 「みんなも少し休んで」
 「リハとかいいのか?」
 「今は体調を万全にすること最優先で考えて」
 「わかった」
 「っす、」

 いづみちゃんが言ったことで、みんながはけてく。

 「芽李ちゃんも、ちゃんと休んでね」
 「もちろん!これ片したらすぐ休むよ!」
 「それなら、よし」

 ニッコリと笑って、そこから去ろうとしたいづみちゃんを引き止める。

 「いづみちゃん、」
 「ん?」
 「我儘、言ってごめんね」

 考えるような仕草をした後、いづみちゃんは思いついたように言った。

 「なんのこと?って思ったけど、衣装のことならみんなの総意だよ。
 じゃなかったら、こんなに団結しないでしょ」

 なんでもないふうにいうから、やっぱりいづみちゃんはすごい。

 「監督が、いづみちゃんでよかった。あの日、ここにきてくれてありがとう」
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