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3月9日  【A3】

第17章 琴平


 そんなことだって、わかってた。
 わかってる…つもりだった。

 「…わかった。支配人、後悔ゲネプロは中止で!至急連絡お願いします」
 「は、はい」

 私は無力だし、言っといて、動いてくれるのは彼女たちなのに。

 「必要なもんがあれば言え」

 …例えば、左京さんなら、もっといい得策があったかもしれない。

 「ベースにするスーツが人数分欲しい
 この際国産でも新品でもなんでもいい」

 指示を出す幸くんは、中学生とは思えない的確さで。

 「迫田!」

 迫田さんも、あんなにここを壊そうとしてたのに。

 左京さんもいるからだけど、今はこうして一生懸命寄り添ってくれる頼もしい人だってわかる。

 「ヘイ!」
 「24時間営業の紳士服の店行って、人数分のスーツ買ってこい」
 「あいあいさー!」
 「飛ばせよ」
 「10分で行ってきやすぜ、アニキ」

 走り去ってく背中を見送りながら、そっと拳を握った。

 「何やってんの、芽李さん。早く、もちろん手伝ってくれるんでしょ」

 ぐいっと幸くんに腕を引かれて、

 「私たちも協力するよ」

 そんないづみちゃんの一言や、

 「何すればいい」
 「俺も裁縫なら、多少できると思う」
 「俺、なんでもできっから。
 ミシンとかやったことねぇけど、秒で覚える」

 秋組のみんなのそう言う姿を見て、その暖かさに普段の私ならきっと泣いてしまうだろう。

 「上等」
 「その特技、初めて役に立つじゃねぇか」

 そんな十座くんの言葉に、万里くんが満更でもなさそうに呟いた。

 「…ふん」
 「不器用なやつは切り裂かれたパーツ揃えて並べて。
 ダメージが酷いやつからこっち持ってきて!」

 火事場の馬鹿力とでもいうんだろうか、切羽詰まった時の方がかえって力が漲ったりするもんだ。

 騒ぎを聞きつけた他の組のみんなも次第に集まってきて、作業場がより賑やかになる。

 「芽李さん、こっちもお願い」

 私には何もできないって、わかってる。
 舞台に立つことも、直接カンパニーの為になることは何もないって。

 「うん!」

 それでも、…幸くんの衣装で、舞台に立つみんなを観たいから。
 私が大好きな、MANKAIカンパニーを守りたいから。

 誰にも、奪わせないから。
 後悔、したくないから…。
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