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3月9日  【A3】

第17章 琴平


 「みんな大変!!」
 「どうしたんだよ、監督ちゃん」
 「お前、それ……」

 いづみちゃんが持ってた布は、見覚えがあって。

 「ーー衣装全部ぼろぼろになってるの」

 ただ、プツンとあの頃のように。
 何かが切れたような、それともスイッチが入ったかのような…。

 そんな感覚が自分の中に湧く。

 「誰がこんなことーー」
 「なぁ、これ衣装のポケットに入ってた。
 『舞台を中止シろ』だってさ」

 ガサゴソと万里くんが辛うじてポケットとわかるパーツの中から、丁寧に折り畳まれたそれを取り出して、見せてくれた。

 「ちょっと、何ソレ?」

 騒ぎに気づいたのか、たまたまなのか、幸くんが談話室へとやってきて、今の惨状を見ている。

 「幸くん…」
 「…許せねぇ」
 「せっかく幸が作った衣装、こんなにするとかマジありえねぇ」
 「犯人は見つけたらぜってぇ殺す」
 「だな」
 「それより、どうすんだ。明日のゲネプロ」

 サァッと血の気が引いてくのがわかる。
 みんなの不穏な空気に、逆に冷静になってる自分がいる。

 「どうしよう…何か代用できる衣装で…」
 「待って、待っていづみちゃん」

 ぎゅっと、目の前の彼女の服を掴んだのは、自分の手じゃないような気がする。

 「芽李ちゃん?」
 「芽李さん?」
 「おい、」

 みんなの目が私をとらえたのを感覚的に悟った。

 「ダメだよ。絶対ダメ。MANKAIカンパニーの舞台の衣装は、幸くんのじゃないと、ダメ」

 そんなの、私のエゴかもしれない。
 舞台に立つのはみんなで、衣装を着るのもみんなで、作るのは幸くんで、決断するのはいづみちゃんだ。

 「春も夏も、役者のみんなはもちろんだけど、幸くんの衣装があったから、」

 そこまで言った時、幸くんがそっと私の肩に手を乗せた。

 「カントク、一日だけ待って。作り直す。
 絶対に本番に間に合わせるから」

 意思のこもった目で、力強い言葉で。
 幸くんが、肯定してくれたような気がした。

 「でも、」

 だけど、私の一言は無責任で。

 「半端な衣装で立たせたりしない。
 こんな嫌がらせに負けてたまるか。
 絶対完璧な衣装で舞台立たせてやる」

 我儘だ。
 大変なのは秋組や、幸くんや、いづみちゃんやみんななのに。
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