第17章 琴平
「みんな大変!!」
「どうしたんだよ、監督ちゃん」
「お前、それ……」
いづみちゃんが持ってた布は、見覚えがあって。
「ーー衣装全部ぼろぼろになってるの」
ただ、プツンとあの頃のように。
何かが切れたような、それともスイッチが入ったかのような…。
そんな感覚が自分の中に湧く。
「誰がこんなことーー」
「なぁ、これ衣装のポケットに入ってた。
『舞台を中止シろ』だってさ」
ガサゴソと万里くんが辛うじてポケットとわかるパーツの中から、丁寧に折り畳まれたそれを取り出して、見せてくれた。
「ちょっと、何ソレ?」
騒ぎに気づいたのか、たまたまなのか、幸くんが談話室へとやってきて、今の惨状を見ている。
「幸くん…」
「…許せねぇ」
「せっかく幸が作った衣装、こんなにするとかマジありえねぇ」
「犯人は見つけたらぜってぇ殺す」
「だな」
「それより、どうすんだ。明日のゲネプロ」
サァッと血の気が引いてくのがわかる。
みんなの不穏な空気に、逆に冷静になってる自分がいる。
「どうしよう…何か代用できる衣装で…」
「待って、待っていづみちゃん」
ぎゅっと、目の前の彼女の服を掴んだのは、自分の手じゃないような気がする。
「芽李ちゃん?」
「芽李さん?」
「おい、」
みんなの目が私をとらえたのを感覚的に悟った。
「ダメだよ。絶対ダメ。MANKAIカンパニーの舞台の衣装は、幸くんのじゃないと、ダメ」
そんなの、私のエゴかもしれない。
舞台に立つのはみんなで、衣装を着るのもみんなで、作るのは幸くんで、決断するのはいづみちゃんだ。
「春も夏も、役者のみんなはもちろんだけど、幸くんの衣装があったから、」
そこまで言った時、幸くんがそっと私の肩に手を乗せた。
「カントク、一日だけ待って。作り直す。
絶対に本番に間に合わせるから」
意思のこもった目で、力強い言葉で。
幸くんが、肯定してくれたような気がした。
「でも、」
だけど、私の一言は無責任で。
「半端な衣装で立たせたりしない。
こんな嫌がらせに負けてたまるか。
絶対完璧な衣装で舞台立たせてやる」
我儘だ。
大変なのは秋組や、幸くんや、いづみちゃんやみんななのに。