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3月9日  【A3】

第16章 鬱金


 そろそろ終業時間だろうか。
 適当に車を止めて、空気を吸うために外に出た。

 肌寒さを感じながらも、なんだか心地いい。
 ゲームでもするか…って、今日ずっとしてたけど。

 車に寄りかかりながら、ログイン画面を開けば生憎お気に入りのゲームはメンテ中で。

 そういえばそうだ、イベント終わったばっかだし…

 ついてないと思いながら、ゆっくり視線を上げた時芽李と目が合う。
 ぱたっと開かれた目を見て、どんな表情してんのって少しおかしく思った。

 「仕事、おつ」

 俺の声で、少し駆け足で寄ってくる。
 なんだか、それだけでいいやって思って。

 一瞬で気分が晴れた。

 我ながら、単純すぎでは?

 「初日、どーだった??」

 何も見ていなかったと装うように、あわよくば言ってくれるんじゃないかと思いながら尋ねる。
 
 「たのしかったよ!」
 「…そう。よかったね」

 まぁ、まだ外だし。
 車に乗ったらきっと…。

 助手席のドアを開けて、乗るように促す。
 俺も運転席に座って、ドアとシートベルトをしめる。

 「至さん」

 名前を呼ばれて、ドキッとしたのがバレないようにできるだけ平然と答える。

 「なーに?」

 言い訳でもなんでも、言ってくれたら気分も晴れるのに

 「ううん、なんでもない」

 なんでもないって誤魔化すから…。

 「至さん」
 「なに、聞いてほしいことでもあるの?」

 先を急かすように言えば、

 「至さんって、エスパー?」

 そんな素っ頓狂な答えが返ってきて、拍子抜けだ。

 「そーそ、芽李専用のエスパー。エスパーって響き上がるよね」

 違うんだよ、エスパーでもなんでもない。
 芽李のことみてたら、わかるんだよ自然と。

 わかりやすいから。

 俺が聞きたいんだよ、なんでも。
 自分でも不思議に思うくらい、全部知りたいんだよ。

 だから早く言ってくれ。

 「そんなに見つめられると、穴あきそうなんだけど」
 「そんなに見てないよ」

 俺は一体、何を焦ってるんだか。

 「嘘。痛いくらい視線感じるから
 そういうの、部屋でしてよ。すぐ襲うから」

 ムードもへったくれもないな。

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