第16章 鬱金
相手"役"には見覚えがあった。
ありすぎるくらいだ。
俺のヒロインだと思ってたのに、…なんて言葉はクサすぎるか?
「っ、」
邪魔してやろうとか、そんなこと頭ではちゃっかり思ってるくせに、情けなくも足が動かない。
ガラス越しには少なくとも、無理やりさも嫌がってる様子もあまり伝わって来ない。
だからこそ、余計かもしれない。
アイツの中にあるのは弟への熱い気持ちだけで、俺は少し心を許されてるような気がしているだけで、勝手に嫉妬しているだけで、カンパニーの奴らはもちろん、他にも仲がいい奴なんて当たり前にいて。
それなら尚更、想われないはずがなくて…。
2人にとって今の俺はモブにすぎないなんて、どんどんと思考回路が悪い方に繋がってく。
せっかく彼女が戻ってきたって言うのに…。
ケータイが静かに鳴った。
また、ライフの回復を知らせる。
…でも、まぁ。
直接彼女に言われたわけじゃない。
友情のハグだってあるかもしれない。
だから、…だから。
「あぁ、クソ。殺すぞ雑魚」
気を逸らすように、指を動かす。
「…ったく、まじうぜぇ」
静かな店内に情けなく言葉が消えてく。
ーーーーー
ーー
ー
「すみません。お客様、ラストオーダーの時間でして」
申し訳なさそうに声をかけてきた店員さんに、もうそんな時間かとうなづく。
「あぁ、じゃあお会計おねがいします」
随分長居させてもらった。
その間もちろん、注文はしていたけど。
「かしこまりました」
寮の奴らにお土産でもテイクアウトしようかと思ったけど、ショーケースが空なことに気づいて諦めた。
金額を告げられ、カードを出す。
小銭を出すのを、煩わしく感じて。
「またお越しください」
丁寧な対応に、曖昧にうなづいた。
すごく居心地はよかったけれど、植え付けられた胸のモヤモヤが邪魔をしていた。
来るとしたら、もう窓際には座るまい。
外は秋の風が吹いていた。
「はぁ…」
少しだけ、息が白く染まる。
待ち合わせには少し早いけど、向かっておくかと、長らく待たせた愛車に乗り込んだ。
エンジンをかける。
ゲームの順位は余裕で一位。
それでも少し気分は晴れなかった。