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3月9日  【A3】

第16章 鬱金


 相手"役"には見覚えがあった。
 ありすぎるくらいだ。

 俺のヒロインだと思ってたのに、…なんて言葉はクサすぎるか?

 「っ、」

 邪魔してやろうとか、そんなこと頭ではちゃっかり思ってるくせに、情けなくも足が動かない。

 ガラス越しには少なくとも、無理やりさも嫌がってる様子もあまり伝わって来ない。

 だからこそ、余計かもしれない。

 アイツの中にあるのは弟への熱い気持ちだけで、俺は少し心を許されてるような気がしているだけで、勝手に嫉妬しているだけで、カンパニーの奴らはもちろん、他にも仲がいい奴なんて当たり前にいて。

 それなら尚更、想われないはずがなくて…。

 2人にとって今の俺はモブにすぎないなんて、どんどんと思考回路が悪い方に繋がってく。

 せっかく彼女が戻ってきたって言うのに…。

 ケータイが静かに鳴った。
 また、ライフの回復を知らせる。

 …でも、まぁ。

 直接彼女に言われたわけじゃない。
 友情のハグだってあるかもしれない。

 だから、…だから。

 「あぁ、クソ。殺すぞ雑魚」

 気を逸らすように、指を動かす。

 「…ったく、まじうぜぇ」

 静かな店内に情けなく言葉が消えてく。


ーーーーー
ーー


 「すみません。お客様、ラストオーダーの時間でして」

 申し訳なさそうに声をかけてきた店員さんに、もうそんな時間かとうなづく。

 「あぁ、じゃあお会計おねがいします」

 随分長居させてもらった。

 その間もちろん、注文はしていたけど。

 「かしこまりました」

 寮の奴らにお土産でもテイクアウトしようかと思ったけど、ショーケースが空なことに気づいて諦めた。

 金額を告げられ、カードを出す。
 小銭を出すのを、煩わしく感じて。

 「またお越しください」

 丁寧な対応に、曖昧にうなづいた。
 すごく居心地はよかったけれど、植え付けられた胸のモヤモヤが邪魔をしていた。

 来るとしたら、もう窓際には座るまい。

 外は秋の風が吹いていた。

 「はぁ…」

 少しだけ、息が白く染まる。

 待ち合わせには少し早いけど、向かっておくかと、長らく待たせた愛車に乗り込んだ。

 エンジンをかける。

 ゲームの順位は余裕で一位。
 それでも少し気分は晴れなかった。
 
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