第16章 鬱金
お互いに用意を済ませて、芽李を車に乗せたのは少し前。
約束通り芽李を職場までのせていく。
車が入れるぎりぎりのことろで止まった後、声をかけた。
「じゃあ、終わるまでドライブでもしてるから、連絡して」
適当に入って、そこでゲームしようなんて、芽李に甘い自覚は少しだけある。
「ありがとうございます」
「うん、終わったらドライブでもしよ」
「はいっ」
パタンと、車のドアを閉めた芽李の背中を見送る。
バックミラーにうつった、お店の人とのやりとりにこっそりと安心して、車をゆっくりと走らせた。
休みの日にわざわざ外に出てゲームなんてしないけど、芽李の出勤再開の初日だし、何かあってすぐ駆けつけてやれる距離に居たいし。
他人に対してこんな気持ち、我ながららしくないかもしれないけど、芽李は特別だから。
近くのカフェにでも寄るか…。
適当な駐車場に入り、近辺のカフェを探す。
長時間入れて、できれば充電もできるような…………。
「ここでいいか」
その場所から5分もしないで着いたそこは、初めて入る喫茶店だった。
なかなかに居心地もよさそうだし、よかったら万里にも教えてやろ。
カランコロンとドアベルがなって、好きな席へどうぞと、通される。
1番奥の窓際の席を陣取る。
メニューにあったピザトーストとコーヒーを頼む。
店内に流れるクラシックに身を委ねながら、俺はゲームのログイン画面を開く。
ライフも満タンだ。
って言っても、課金次第でどうにかなるんだけど…。
「珈琲お待たせいたしました」
その言葉に俺もぺこっと頭を下げる。
たまになら、こう言う過ごし方もありかもなんて、思っていた矢先のことだった。
「ピザトーストお持ちしました。ご注文は以上でお揃いですか?」
「あ、はい。ありがとうございます」
ニコッと笑って返し、そのまま視線を戻そうとした時に窓から見えた道路越しに目立つピンクの髪。
思わずゲームを置く。
映画のワンシーンを観ているようだった。
2人しかいないような世界観で、周りを何も気にしていないかのような。
あれは確かゴット座の…。
ぎゅっと、胸がしめつけられるような。
「はは…」
思わず乾いた声が漏れる。