第15章 一葉
「至さん?」
掴んで、何も言わないから。
さきを促すように名前を呼んだのに…。
至さんはやっぱり何も言わない。
すごく長い時間のように感じた。
「…あ、ごめん。思いの外手首細かったからビビってた。
夜食は、肉まんがいいなって」
パッと手を離した至さん。
跡にもならない、力だった。
「え?ピザじゃなくていいの?」
「うん」
「そ?」
「だから、一緒にたべよ?バンリも呼ぶから」
「うん、わかった」
そういって、車から降りる。
変な至さん。
一体、どうしたっていうんだろう。
「ねぇ、芽李。
先に行ってて、俺、上司に電話しなきゃいけないの忘れてた。
ここでかけてくから」
「うん、わかった。みんなにも伝えておくね」
「よろしく」
パタンとドアを閉める。
そういえば、改めてお礼いわなかった。
…まぁいっか、後でで。
駐車場から寮の玄関に向かえば、ちょうど外から帰って来たであろう太一くんの赤と黒の印象的な髪が見えて。
「たーいちくん!」
と、後ろから声をかけると、異様なほど肩が揺れた。
「太一くん?」
「芽李さん」
太一くんのその瞳が、
その表情が、
嫌に印象に残る。
彼らしくない、知らない顔をしてる。
傷ついたような、
傷つけたような、
普段の太陽みたいな彼の顔じゃない。
「あ、…いや。あー。寒いっすね、外」
「え、うん。まぁ、秋だしね、夕方はもう冷えるよね」
当たり障りのない言葉を交わしたうちに、表情が変わる。
「今日の夕飯は、カレーっすかね!」
「かもしれないね」
「芽李さんは、…どこか行ってたんすか?」
「仕事だよ、至さんに送迎してもらって」
「へ、へぇ…」
「太一君は?」
聞いたのに、返事もなくそのまま寮に入る。
「オツピコ〜っ、二人ともお帰り〜」
もう秋だと言うのに、棒突きのアイスを加えて出迎えてくれたカズ君。
「アイス食べてたの?」
「そーそ!特売なってたからって、珍しくフルーチェさんが差し入れてくれたんだよねんっ
秋組は稽古の後だってさ!たいっちゃんも、みんなもう稽古場行ってるみたいだよ?」
ジャジャーンと見せてきた稽古場の写真を見て、どこか苦しそうな顔をした太一君。