第15章 一葉
「初日、どーだった??」
「たのしかったよ!」
「そう。よかったね」
季節は真逆だと言うのに、春みたいに笑うから私もつられて笑ってしまう。
至さんのエスコートで、その助手席に座る。
彼も運転席に座って、私と同じようにベルトをつけたところで声をかけた。
「至さん」
「なーに?」
「ううん、なんでもない」
伝えたいこと、いっぱいあるのになぜかうまく言葉にできない。
「至さん」
例えば今日の仕事のこととか、
例えば晴翔のこととか、
例えばおばあちゃんのこととか、
どうして至さんに全部聞いてほしいって思うんだろう。
わかりそうで分からない疑問が浮かんだ時、至さんがエンジンをつけた。
「なに、聞いてほしいことでもあるの?」
「至さんって、エスパー?」
「そーそ、芽李専用のエスパー。エスパーって響き上がるよね」
横顔しか見えないのに、飄々として涼しい顔してるのに。
「そんなに見つめられると、穴あきそうなんだけど」
耳だけ少し赤い。
「そんなに見てないよ」
「嘘。痛いくらい視線感じるから。
そういうの、部屋でしてよ。すぐ襲うから」
「襲われたくないから、却下」
「じゃあ、ホテルでも行く?」
「…いいよって言ったら?」
ききーっと、ブレーキをかけた至さん。
「急ブレーキ危ないよ?」
「動揺してんの」
「動揺したんだ?」
「お前、そんなこと誰にでも言うの?」
即答、できなかったのは。
そんなつもりじゃないとは思うけど、なぜかその言葉が小骨のように引っかかってしまったから。
「芽李?」
至さんにしか言わないよ、って。
どうして即答できなかったんだろう。
どうしてこんなに傷つきそうな自分がいるんだろう。
めんどくさいな、私。
「……高いところにしてよね。
夜景が綺麗で、至さんでも手が届かないくらいの金額のホテルじゃなかったらついてかないから」
「うわ」
「うわって」
「まー、いーけど」
「冗談だよね?」
「冗談でしょ」
言葉通り、いつものように寮に着く。
「ね、」
ベルトを外して、ドアノブに手をかける。
その前にありがとうと、声をかけようとした時。
ガシッと手首を掴まれる。
至さんの手が熱い。