第15章 一葉
「そう、よかった」
なんて、本当に安心したように笑うから敵わない。
「ありがとうございました。気にかけていただいて」
「今更何言ってるのよ、もう孫娘みたいなものだわ。ふふ」
この人の、親戚なら良かったな。
うちのとは、圧倒的に違う。
…でも、あんな家じゃなかったら。
もし両親共に健在だったら。
咲とは暮らせていたとしても、カンパニーのみんなとは会えてなかったんだもんな…。
そう考えると、これまでの助走期間だってなかなか悪くなかったんじゃないかと思う。
「おばあちゃんのお店、紹介してくれた左京さんにすごくありがとう伝えたい気分です」
「ふふ」
ーーー
ー
…手を動かしていると、もうそろそろ退勤の時間で。
「どうだった?久しぶりにきて」
おばあちゃんが腰掛けながら聞いてくる。
「すごく、楽しかったです」
ここには、私の居場所がちゃんとあって。
「そう、…わすれないでね。芽李ちゃん」
「なにを?」
「あなたは、ずっとこのお店の一員で、私の家族みたいなものだからね?」
優しく包んでくれるような視線で。
「なにがあっても、もし目指したい何かができて、そっちに進みたくなってもいいの」
こんなに温かいことを言ってくれる。
「帰って来たくなったら、帰ってくればいいのよ。今日みたいにね?
私はもう若くないけど、あなたが帰ってくる場所はきちんと守っておくから」
ぶわっと、涙腺が緩む。
「おばあちゃん…」
「歳をとると辛気臭くなってだめね。
でも、芽李ちゃんを見てたら思ったのよ。ちゃんと伝えてあげなきゃいけないって」
おばあちゃんが立ち上がって、しわくちゃの手が私の手を包む。
「…って、そろそろ時間ね。上がっていいわ」
仕事再開の一日目だからと、私を促すおばあちゃん。
本当に優しくて、温かい人。
「明日も待っているわね」
その言葉にうなづいて、帰り支度をし始める。
挨拶を済ませて、外に出れば見慣れた車。
いたるさんがそれに寄りかかるようにして立っていた。
相変わらずゲームしてる。
…至さんだ。
そう思った時、ゆっくり視線を上げた至さんと目が合う。
まだ名前、呼んでなかったのに。
「仕事、おつ」
その声に駆け寄る。