第15章 一葉
ピンクの髪を見送った時、
「芽李ちゃん、弦ちゃんと喧嘩しちゃったの?」
おばあちゃんが心配そうにいったから、何とも頷けない。
「いえ、なんでもないです」
「そう………って、大変」
「どうしたんですか?」
「弦ちゃん、お財布忘れちゃってる。今追いかければ間に合うかしら?」
チラッと私を見たおばあちゃん。
策士である。
「…わかりました、届けて来ます」
「助かるわぁ」
なんか、既視感というか。
前にもこう言うことあったな?
と、思いつつ、エプロンとハサミを一旦外して、その財布を受け取り追いかける。
少し肌寒い風が吹いてる。
空気は少し澄んでて、秋らしい風だと思った。
いつもはそんなんじゃないのに、今日に限って人が多い。
目立つはずのピンクにさっぱり追いつけない。
「はると」
やっと、その色が見えて、遠くから声をかける。
そんな大きな声でもないはずなのに、たった一声で振り返ったその人と目が合う。
時間が止まったような気がした。
「さいふ!」
晴翔が立ち止まったから、私はやっと追いつくことが出来た。
「忘れてるよ」
差し出したのにそれを受け取らず、財布を持ってた方の腕を掴まれ彼の方に引かれたから、前につんのめる。
「っ」
ぽすっと、
香ったのは晴翔の匂い。
「な、なに!」
話そうとグイグイ胸の辺りを押すのに、全然離れない。
片手で器用にアレンジメントをもってたくせに、それも気にしないでぎゅっと力が込められる。
こんなハグに一体どんな意味があるって言うんだ。
「はると?」
ゆっくり離れると、
またグイグイと腕を引いて、どこに連れてこうとしてるんだ?と思いつつ、馬鹿みたいについてくのは、晴翔の様子がやっぱりいつもと違かったから。
人通りをぬけて、少しひらけて来た時、ちょうどいいベンチがあって、晴翔はそこにアレンジメントを置いた。
「なに、ってば」
「アレンジメントが邪魔だったから。ちゃんと、抱きしめられなかったから」
「は?」
またフワッと抱きしめられる。
「でも、おばあちゃんつくってくれたやつだし、レニさんのおつかいだから、汚すわけにはいかないでしょ」
「そう言うことじゃなくてさ、この腕は何?」