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3月9日  【A3】

第15章 一葉


 「じゃあ、終わるまでドライブでもしてるから、連絡して」

 約束通り私を職場まで乗せてくれた至さん。

 「ありがとうございます」
 「うん、終わったらドライブでもしよ」
 「はいっ」

 パタンと、車のドアを閉める。

 「あら、芽李ちゃん」

 ちょうどよく後ろから声がかかる。
 おばあちゃんの声だ。

 やけに懐かしく感じる。

 「おかえりなさい」
 「ただいま戻りました!」

 おかえりって言葉が、こんなにも嬉しい。
 MANKAIカンパニーに帰って来た時も思ったけど、帰れる場所があるってそれだけで幸せだ。

 「待ってたわ。弦ちゃんもね、気にしてたのよ。
 もちろん、つむちゃんも莇ちゃんもね」

 久しぶりに聞く常連さんの名前に、ふふっと笑ってしまった。

 「嬉しいです」
 「私も嬉しいわ。娘みたいに思ってたもの。
 さ、今日からまたバシバシ働いてもらうわね」

 差し出された、仕事道具を受け取る。

 「はい!!」

 ハサミもエプロンも、嘘みたいに馴染む。

 「おばあちゃん、」
 「なぁに?」
 「もうすぐ私の劇団のね、秋組の公演があるんだ」
 「秋組?」
 「左京さんとか、所属してる」
 「左京ちゃん!…そう、夢が叶うのね」
 「おばあちゃん知ってたの??」
 「昔ね、聞いたことがあったのよ。ふふ、…そう」
 「そうなんですね、なら」

 言おうとした時、入って来たのは見覚えのあるピンク。

 久しぶりに見た整った顔。

 同時に、少しもやっとしたのは、脅迫状のことどうしてか思い出したから。

 「おばあちゃ…って、なんでお前がいるんだよ」
 「…」
 「あらあら、弦ちゃん言い方怖いわ」
 「いらっしゃいませ。ここにいて、何か問題でも?」
 「芽李ちゃん」
 「すみません」
 「ふん。おばあちゃん、注文してたの取りに来た」
 「はいはい。芽李ちゃん、あそこのアレンジメントお願い」
 「…はい」

 いつも通り出来のいいアレンジメント。
 ゴージャスで、何とも彼が所属するゴット座らしい仕上がりだ。

 「お待たせしました」

 セロファンをかけたものを、ずいっと押し付ける。

 「わっ、」

 一瞬よろけそうになったくせに、持ち直して笑顔を作ってる。

 「弦ちゃん、レニちゃんによろしくね」
 「はいっ」
 
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