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3月9日  【A3】

第15章 一葉


 「追いかけっこでもしてたの?」
 「弟と、競争を」
 「そう、気をつけてね」
 「はい、すみません」

 ぺこっと頭を下げ、失礼しますとつげて、咲を追う。
 銀色の髪が印象的な、綺麗な人だった。


ーーー
ーー


 結局、寮まで全力疾走…とまではいかないけど、走った結果。

 「はぁっはぁっ…っ、」

 死ぬかと思ったわ。
 全力DKに勝てるわけなくない?
 それより、DKって死語?


 「玄関で何してんの?」

 冷たい声の真澄くん。
 冷たいって言うか、通常運転というか。

 「いや、…はぁっ、さく、と、はぁっあ"〜」
 「あれ?真澄くん?」
 「咲也、芽李がなんかいってる」
 「ははは、オレが競争しようって言ったからバテちゃったみたいで。ごめんね、芽李ねぇちゃん。水飲める?ちょっと休憩しよ?」

 先についた咲が、わざわざ玄関まで水を持って来てくれる。

 「あり、がと」

 ぐびっと飲んで、落ち着かせる。

 「幸くんが、待っててくれたって。落ち着いたら行こう?オレ、コップ置いてくるね?」

 咲が空になったコップを私から取り上げる。
 落ち着いたんだけど、紐靴キツく結びすぎて取れないんだな、コレが。
 と、私が格闘していると隣にしゃがんだ真澄くん。

 「よかったね」
 「え?」
 「咲也と、仲直りしたんでしょ」
 「あ、うん」

 気になって横を見る。
 一瞬視線を逸らしたかと思えば、真剣な眼差しで私を捉えたその目。

 「カレーパン、アンタと買いに行ったことあったよね」
 「うん、」
 「あの時俺が家族って言ったら、アンタ否定したけど」
 「…」

 なんの話だろう…。
 と、靴を脱ぐ手を止める。

 「俺、アンタが居なくなって…その、なんて言うか、寂しいって思ったんだよ。アンタは、監督じゃないのに。
 それから、いま咲也とアンタのこと見てホッとしてる。
 よかったなって、俺のことじゃないのに思ってる」
 「真澄くん…」
 「それにアンタ、よく俺のこと気にしてた…やっぱり、俺たち家族でしょ?」

 確信を持って言うから、うなづくしかできない。

 「そうかも。…あの時はごめんね、真澄くん」
 「分かればいい」

 ただの気まぐれだったのか、すっと立ち上がって

 「監督探してくる」

 と、いつも通りにどこかへ行った。
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