第15章 一葉
「追いかけっこでもしてたの?」
「弟と、競争を」
「そう、気をつけてね」
「はい、すみません」
ぺこっと頭を下げ、失礼しますとつげて、咲を追う。
銀色の髪が印象的な、綺麗な人だった。
ーーー
ーー
結局、寮まで全力疾走…とまではいかないけど、走った結果。
「はぁっはぁっ…っ、」
死ぬかと思ったわ。
全力DKに勝てるわけなくない?
それより、DKって死語?
「玄関で何してんの?」
冷たい声の真澄くん。
冷たいって言うか、通常運転というか。
「いや、…はぁっ、さく、と、はぁっあ"〜」
「あれ?真澄くん?」
「咲也、芽李がなんかいってる」
「ははは、オレが競争しようって言ったからバテちゃったみたいで。ごめんね、芽李ねぇちゃん。水飲める?ちょっと休憩しよ?」
先についた咲が、わざわざ玄関まで水を持って来てくれる。
「あり、がと」
ぐびっと飲んで、落ち着かせる。
「幸くんが、待っててくれたって。落ち着いたら行こう?オレ、コップ置いてくるね?」
咲が空になったコップを私から取り上げる。
落ち着いたんだけど、紐靴キツく結びすぎて取れないんだな、コレが。
と、私が格闘していると隣にしゃがんだ真澄くん。
「よかったね」
「え?」
「咲也と、仲直りしたんでしょ」
「あ、うん」
気になって横を見る。
一瞬視線を逸らしたかと思えば、真剣な眼差しで私を捉えたその目。
「カレーパン、アンタと買いに行ったことあったよね」
「うん、」
「あの時俺が家族って言ったら、アンタ否定したけど」
「…」
なんの話だろう…。
と、靴を脱ぐ手を止める。
「俺、アンタが居なくなって…その、なんて言うか、寂しいって思ったんだよ。アンタは、監督じゃないのに。
それから、いま咲也とアンタのこと見てホッとしてる。
よかったなって、俺のことじゃないのに思ってる」
「真澄くん…」
「それにアンタ、よく俺のこと気にしてた…やっぱり、俺たち家族でしょ?」
確信を持って言うから、うなづくしかできない。
「そうかも。…あの時はごめんね、真澄くん」
「分かればいい」
ただの気まぐれだったのか、すっと立ち上がって
「監督探してくる」
と、いつも通りにどこかへ行った。