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3月9日  【A3】

第15章 一葉


 土手から降りて、街の方にでる。 
 遠回りした散歩道。

 「ねぇちゃん」
 「なぁに?」
 「んーん、充電しておこうって思って。そしたら、離れても頑張れるから」

 すっと手を繋がれる。

 「懐かしいね、こうやって歩くの」
 「うん。…やっぱり、もうオレの手の方が大きいね」
 「そうだね、身長も追い越されちゃったし」
 「いっぱい牛乳のんだから」
 「ふふ、そっか」

 姉弟といっても、もうお互いに幼くないのに。
 手を繋いで歩くのだって、多分側からみたら違和感でしかないのに。

 「咲」
 「ん?」
 「咲が弟でよかった」
 「オレも、ねぇちゃんが、芽李ねぇちゃんでよかった。両親に感謝しないと、」
 「うん、今同じこと思ってた」

 秋の風が優しく吹く。
 ピロンっとお互いの携帯電話が鳴る。
 先に開いたのは咲。

 「ねぇちゃん」
 「なに?」
 「帰ろっか」
 「え?もう?」
 「うん、オレも気持ち話せたし。スッキリしたし。…みて、グループの方に、幸くんからの写真」

 すっと差し出された携帯電話。
 
 「あ、衣装」
 「今帰れば衣装合わせ、間に合うかもよ」
 「う」
 「仲直りしたんだし、オレとはいつでも来られるでしょ。帰ろうよ」
 「でも…」
 「ねぇちゃん、オレ知ってるよ」

 足を止めた咲。

 「オレと同じくらい、カンパニーが大事なことも。
 一成さんの作ってくれるグッズ、臣さんの写真に、綴くんの作った脚本。それから、幸くんの作った衣装が大好きなこと。
 幸くんの衣装を纏う、オレ達を見てるねぇちゃんの顔、1番キラキラしてて、好きなんだ」
 「咲」
 「ねぇちゃんの為だけじゃないよ。オレが早く、あの顔見たいだけだからね」

 ふんわり笑って、手を離した咲。

 「だから、競争」
 「え?こっから?」
 「うん、体力づくりも兼ねて」
 「結構距離あるよ?」
 「なおさら、間に合わないと困るでしょ!
 1について、よーい…」
 「待って、」
 「どんっ」

 咲が走り出す。
 その背中を追うのは私。


ーーー
ーー

 「ちょ、さく!早いってっ」

 無言で走り続ける咲、私そろそろ息切れそう。

 トスッとぶつかる。

 「すみません、」
 「…いえ、僕もごめんね、怪我はない?」
 「はい、」
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