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3月9日  【A3】

第15章 一葉


 「カンパニーのためだよ」
 「え?」
 「咲がカンパニーにいることはバレたけど、私がここで働いていることはバレてないから」
 「何が言いたいの」
 「ヘタをすると、咲と私だけじゃなくてみんなが居場所失うことになっちゃう。だから、咲。お願いがあるの」
 「…」

 黙ったままの咲。
 ごめんね、咲。

 「咲は、舞台の上で咲き続けて。私が咲を見失わないように。
 また、咲の元に帰って来られるように」

 咲と目が合う。

 「…ねぇちゃんは、これからどうするの」
 「私は、冬が終わったらまた北海道に戻るよ。
 今度こそ、ちゃんと終わらせられるように」
 「もう会えなくなる?」
 「ううん、そんなことない。年に4回だけ、本州に来られるように約束してもらったから。
 みんなの公演みたいし、咲と会いたいし。終わったら帰ってくるよ。私の居場所は、咲がいるMANKAIカンパニーだから」
 「…まだ傷つくの」
 「もう傷つかないよ、守ってくれる人がいるから」
 「…至さん?」

 思わずキョトンとしてしまった。

 「どうしてそこで至さんがでてくるのよ」
 「だって、ねぇちゃん至さんのこと、好き…なんでしょ。至さんも、ねぇちゃんのこと、想ってるよね」

 咲の真剣な眼差しに、いつのまにかそんなことまでわかるようになったんだと、なんか少しくすぐったくなった。

 「ううん、至さんじゃないよ。だけど、…だけど、頼りになる人だから、大丈夫」
 「…っ、ねぇちゃんはそれでいいの?」
 「うん、決めたことだから」
 「至さんは、」
 「…………うん、いいの。いいのよ」
 「本当に言ってるの?」

 咲が不安にならないよう、にっこりと笑う。

 「うん。だから、至さんのことよろしくね。咲。至さん、すぐサボろうとするから」
 「…」
 「咲、冬が終わったら、私はもうここにはいられないけど、でもずっと咲のこと見てるから。
 咲を思って頑張るから、だから咲も」
 「…オレだって、思ってるから。ねぇちゃんのこと、思って舞台に立つから、だからねぇちゃんは、オレを諦めないで。
 今までみたいに、オレのこと、…そしたら、またすぐに会えるから。そうでしょ?」

 「うん、」

 咲、

 ごめんね、

 また、手を離してしまう。

 

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