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3月9日  【A3】

第14章 冬桜


 「…そんな顔、させたくなかったから言ったのに」

 ボソッと聞こえた声。
 近づく足音。

 ポンっと肩にのった手は、あの頃みたいな小さな紅葉じゃない。

 もう片方の手で、ゆっくりと私の顔を上げさせる。
 そしてぐいっと親指で溢れた涙を拭ってくれる。

 ぎゅっとその手を握る。

 「さく、」
 「目、真っ赤ですね、」

 目を擦ったからだ。

 「っ、」
 「心配しました。すごく、心配してたのに、オレに芽李さんは、心配すらされるの嫌だったんでしょ?」
 「ちが、」
 「オレはコレでも怒ってるんです、わかってる?」

 コクンとうなづく。

 「あの頃の、"おれ"じゃないよ、もう。」
 「はい」
 「オレなりに、いろいろ経験してきたし、コレからもしていく。
だから、ねぇちゃんばっかりに負担かけたくないよ。
 もう1人で背負わなくていいから、オレは頼りない?」

 ぶんぶんと首を振る。

 「ねぇちゃんがオレにもその重い荷物、よこしてくれるなら、仲直りしてあげる。

 酷いこと言ったのも、撤回してあげる。どうする?」

 「咲と仲直りする、」

 言った瞬間に、馬鹿みたいに泣けてきた。
 本当にさっきの比じゃないくらいに。

 「咲がいないと生きてけない、息できない、」
 「ふふ、」
 「咲が生きる理由なの、目標なの、私の全部なの、探せなくてごめん、ずぅっと1人にさせてごめん。
 初めて会った時、嘘ついてごめん、怖かった。
 こわくて、ずるいから、誤魔化した」

 情けない私、こんなとこ見せたくないのに。

 「でも、ほんとに、巻き込みたくないの、だって、だってせっかく咲と会えたのに、また会えなくなったらって、こわいの。

 咲がね、舞台の俳優さんなるのみて、私すごくワクワクしたの。

 学芸会とか運動会とか今まで見たかったのに見れなくて、舞台はお仕事かもしれないけど、だから、だから嬉しくて。

 春組のみんなと咲が仲良くしてるのが嬉しい、他の組のみんなが咲を慕ってくれるのが嬉しい。

 咲の、おねぇちゃんに戻りたい。
 むしのよすぎる話だけど、だけど、」

 ぎゅっと抱きしめられて、咲の匂いがする。
 私よりも大きくなった背が私を包む。

 心臓の音が聞こえて、早くなっていた鼓動が落ち着いてくのがわかる。

 「もっと聞かせて、オレもちゃんと話すから」
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