第14章 冬桜
「じゃあ、部屋行く?」
「うん」
ポケットの中にケータイをしまって、お皿にのったピザトーストをもって。
「うまそ」
至さんは私の前を歩く。
「積もる話もあるもんな」
「私は特にないから、至さんの話が聞きたい」
「ないの?」
「んー…?」
「ほんとに?」
「さっき咲と、また」
「は?また??」
呆れたような至さんに、そりゃそうだと私も思う。
「おねぇちゃん、むいてないのかな?」
「逆だろ、逆。おねぇちゃん向いてないとかじゃなくて、おねぇちゃんやらなきゃって、硬くなりすぎなんじゃない?
咲也だってまっすぐな子なんだから、お前もまっすぐぶつかってやれよ、物理じゃなくて心理で」
「物理で真っ直ぐぶつかる奴いなくない?」
「モノの例えだろー。で、今度は何したわけ?」
至さんの部屋の前について、相変わらずの汚…モノの多い部屋に変に安心する私が居て。
少しだけものをどけて、私が座るスペースをつくってくれて、いつもの席に座った至さん。
「んー…」
ソファにぽすんっと沈んだ体を、抱く。
「なんていうか、空回りしたと言うか」
「空回り?」
「咲のこと、大事過ぎて本当に傷つけたくなくて、そばにいてくれるだけで凄く幸せなのに、…って言うのを、今回改めて思い知って、向き合わないとって思ったのに、結局今楽な方に逃げてしまって、自己嫌悪に陥りそう。てか、陥ってる」
「楽な方って?」
「至さんとこうやってお話しすること」
ドサドサって音がして、ソファが軋む。
フワッと香ったのは、シャンプーの匂い。
「よーしよし」
「なんの真似ですか?」
「なんか、とっても可愛いこと言うから」
むぎゅーっと、優しく抱きしめられる。
「咲にもこうやって、コミュニケーションちゃんと取れたらいいのに。
劇団の年下の子達みんな可愛いよ、でもさ、比じゃないんだよ。
咲が1番なの。1番可愛くて優しくて、大好きなのに。
なんで伝わらないんだろ」
トントンと至さんがさすってくれる。
「咲のことなんか、目に入れたって痛くないよ」
「孫じゃん、それ」
「でもさ、咲のことぎゅーってしてさ、もう食べちゃいたいくらい可愛いとか言ってみ?おねぇちゃんやばいやつ認定されるじゃん。でもそれくらい可愛いわけよ、私が守りたいのよ」