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3月9日  【A3】

第14章 冬桜


 「じゃあ、部屋行く?」
 「うん」

 ポケットの中にケータイをしまって、お皿にのったピザトーストをもって。

 「うまそ」

 至さんは私の前を歩く。

 「積もる話もあるもんな」
 「私は特にないから、至さんの話が聞きたい」
 「ないの?」
 「んー…?」
 「ほんとに?」
 「さっき咲と、また」
 「は?また??」

 呆れたような至さんに、そりゃそうだと私も思う。

 「おねぇちゃん、むいてないのかな?」
 「逆だろ、逆。おねぇちゃん向いてないとかじゃなくて、おねぇちゃんやらなきゃって、硬くなりすぎなんじゃない?
 咲也だってまっすぐな子なんだから、お前もまっすぐぶつかってやれよ、物理じゃなくて心理で」
 「物理で真っ直ぐぶつかる奴いなくない?」
 「モノの例えだろー。で、今度は何したわけ?」

 至さんの部屋の前について、相変わらずの汚…モノの多い部屋に変に安心する私が居て。

 少しだけものをどけて、私が座るスペースをつくってくれて、いつもの席に座った至さん。

 「んー…」

 ソファにぽすんっと沈んだ体を、抱く。

 「なんていうか、空回りしたと言うか」
 「空回り?」
 「咲のこと、大事過ぎて本当に傷つけたくなくて、そばにいてくれるだけで凄く幸せなのに、…って言うのを、今回改めて思い知って、向き合わないとって思ったのに、結局今楽な方に逃げてしまって、自己嫌悪に陥りそう。てか、陥ってる」
 「楽な方って?」
 「至さんとこうやってお話しすること」

 ドサドサって音がして、ソファが軋む。
 フワッと香ったのは、シャンプーの匂い。

 「よーしよし」
 「なんの真似ですか?」
 「なんか、とっても可愛いこと言うから」

 むぎゅーっと、優しく抱きしめられる。

 「咲にもこうやって、コミュニケーションちゃんと取れたらいいのに。
 劇団の年下の子達みんな可愛いよ、でもさ、比じゃないんだよ。
 咲が1番なの。1番可愛くて優しくて、大好きなのに。
 なんで伝わらないんだろ」

 トントンと至さんがさすってくれる。

 「咲のことなんか、目に入れたって痛くないよ」
 「孫じゃん、それ」
 「でもさ、咲のことぎゅーってしてさ、もう食べちゃいたいくらい可愛いとか言ってみ?おねぇちゃんやばいやつ認定されるじゃん。でもそれくらい可愛いわけよ、私が守りたいのよ」
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