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3月9日  【A3】

第14章 冬桜


 「抱きしめちゃったけど、汗臭かったでしょ?」

 ぜんぜん、そんなこと思ってないのに。

 「…そうでもない?」

 素直にならずにそんなふうに返せば、片方のほっぺだけ器用に膨らませた至さん。

 「うわー、何その間。そこは、もっとスピーディに答えてよ。
 全く、椋の漫画借りて少女漫画研究しなさい」
 「それは、干物系ゲームオタクである至さんに言われたくない。顔いいのにもったいない」

 ほんと、顔がいい。

 「…っく、…あー、もう。至さん傷ついた!ってことで、芽李さんも、お風呂一緒に入る?」

 上目遣いで言われても、流石にそう言う仲じゃないし。

 「入りません。さっき入ったもん。至さんに夜食作んなきゃだし。何食べたい?」
 「ピザ」
 「そんなにすぐにできないよ。ピザトーストは??」

 確か冷蔵庫に材料が入ってたはずだ。

 「ありよりのアリ。んじゃ、風呂行ってくんね。夜食、お願いします」
 「あったまってきてね?」
 「うん、ありがとー」

 お風呂に行った至さんを見送って、夜食の準備を始める。








ーーーーー
ーーー
ーー


 「できた」

 あとは焼くだけの状態にして、至さんを待つ。

 その時、ドアノブが回った。

 「え、」

 と、二度見され、もう一回ドアが閉められる。

 こっちが

 "え、"

 と言いたい。


 「天馬君?」
 「本物か?」

 それ言われるの、芸能人だけかと思ってた。

 「うん、一応ね」
 「そうか…おかえり、芽李さん」
 「ただいま、天馬君。天馬君もお帰りなさい」
 「ただいま」
 「夕飯は?」
 「外で食べてきた」
 「そっか」
 「打ち上げだったんだよ、詳細は言えないけど。今度ドラマにでるんだ」
 「それは楽しみ…あのさ、天馬君」
 「なんだ?」

 見慣れたオレンジの髪が揺れる。

 「千秋楽、いけなくてごめんなさい」
 「事情があったんだろ?しかたない。あれで最後の舞台じゃないんだし」

 といいつつ、切なげにゆれた瞳。

 「…それと、
 ありがとう、天馬君」
 「何のことだ?」
 「天馬君のおかけで、あの時電話出れたの。いい方向に、転がったの。
 テレビにね、天馬君が出てて、…すっごく元気出たの」
 「っ、」
 「って、何のことだよってかんじだよね」
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