第14章 冬桜
「ねぇちゃんの弟は、オレじゃないの?…オレには相談も向き合うのも、できないの?」
「ちが、」
「オレがこの劇団に入ろうとして、ねぇちゃんとぶつかった時、すぐに分かったよ。
ねぇちゃんだっ、て。ねぇちゃんも、わかってたよね?
分かって、酒井芽李って、名乗った…違う?」
…そうだ。
痛いとこをつかれて、何も言えない。
「オレのことたまに咲って呼んでたのに、頑なに隠そうとしてた。
ねぇちゃん、…オレと姉弟に戻りたくないなら、…無理しなくていいよ。
…、オレには、春組っていう家族ができたから、…、もう、いいよ。
大丈夫、オレ役者さんだから。ちゃんと、できるよ。
…って言うことで、
オレ、明日も学校あるので、そろそろ寝ますね。
芽李さんも、早く寝てくださいね!」
そんな顔させたいんじゃなかった。
私だって、思ってた。
傷つけるのが、怖かった。
こうなるはずじゃ…なかったのに。
せっかく帰って来れたのに。
そばに居られるのに…。
何してるんだろう、同じこと繰り返して。
掛け違えたボタンみたいに、
噛み合わないファスナーみたいに、
どうしよう、
どうしようって思うのに、
なんで動かないんだろう。私の足…。
閉じられたドアの向こうに、それでも手が届く場所に咲がいるのに。
なんとか立ち上がって、ドアノブを手に取り、…回す勇気もなく。
ー…がちゃっ
ぐいっと引かれたドアに巻き込まれて、私も転びそうになる。
「ちょ、っ、」
「え…」
ぽすんと、収まった腕の中。
少し汗も混じってるけど、嗅いだことのある香水の香り。
ゆっくりと両肩を掴まれて、離される。
そして、じっくりと目が合う。
「芽李?ほんとに?」
「…」
どうしよう、私、人妻なのに…とか。
偽装のくせに。
その目に見られたせいで、私の体温が急上昇していく。
「っあっ、う、」
久しぶりのせいか、
意識し出したせいか、
何も言えなくて、口をパクパクとさせる私のなんで滑稽なことか。
肩から手が離れたのに、そこだけ熱を持ったみたい。
それから、そっと顔に触れた手。
「会いたかった、どうしようもなく…」
窓からは月の明かりが優しい。