第14章 冬桜
「どこから話そうか、…というか、さ」
「監督から聞きました。…法事?だったんですよね」
「え?あ…うん。そうだね、」
そう言ってた気がする。
「北海道、ですよね」
「うん、そうだね」
「オレは、行かなくてよかったんですか?」
「それは…、…。今回は、軽い打ち合わせみたいなものだったから、それに咲は、春組のリーダーでしょ」
「父さんと、母さんの法事だよね?リーダーは関係ない」
「…」
「ねぇちゃん、何か、隠してる?」
時計の針だけが強く聞こえて。
「ほんとに、…打ち合わせだよ」
「何日も、何週間も寮を開けたのに?」
千景さんと約束した。
親戚との縁をきちんと切るための、戦い。
咲を巻き込むわけには行かない。
せっかく咲いた花を、枯らすわけにはいかない。
言ったら劇団にも迷惑をかけるかもしれないから、言えない。
「そういうこともあるよ、…ねぇ、咲、覚えてる?
ここから向こうの家までどのくらいかかると思う?結構かかるんだよ、移動するだけでも。
心配かけたのは、本当にごめんなさい。
親戚連中もいまピリピリしててさ、咲にまで八つ当たり行ったら困るもん。だから、法事の時は連れてくから、少し待ってて」
咲のまん丸の目が、少し歪む。
「…」
疑ってる…?
「…また、ねぇちゃんは傷つくの?」
「傷ついてなんかないよ?」
「おれ、親戚の人達と集まる時のねぇちゃんが、ずっと嫌だった。オレの知ってるねぇちゃんじゃなかったから。
…でも、おれを守るためっていうのも、どこかでわかってた」
「ん」
「オレがいなかったら、違うのかなって、」
ぎゅっとズボンの裾を握っている咲。
「そんなこと!」
「実際言われたんだ。ねぇちゃんの為になるから、って。そう信じて、ずっと生きてた。いろんなお家に行って、馴染めなくて次のとこでは、って、」
「咲は、悪くない」
「馴染めないオレが、ねぇちゃんの足手纏いにならないわけがないって、…」
「そんなこと、あるわけないじゃん」
「あるよ!だから、…今回だって、…」
「…っ、」
「ごめん、ねぇちゃん。…おれ、自信ない」
「え、」
「ねぇちゃんのこと、傷つけたいわけじゃない。でも、おれが、ねぇちゃんと向き合おうとする度にねぇちゃんは、すごく悲しそうで…」