• テキストサイズ

3月9日  【A3】

第14章 冬桜


 「どこから話そうか、…というか、さ」
 「監督から聞きました。…法事?だったんですよね」
 「え?あ…うん。そうだね、」

 そう言ってた気がする。

 「北海道、ですよね」
 「うん、そうだね」
 「オレは、行かなくてよかったんですか?」
 「それは…、…。今回は、軽い打ち合わせみたいなものだったから、それに咲は、春組のリーダーでしょ」
 「父さんと、母さんの法事だよね?リーダーは関係ない」
 「…」
 「ねぇちゃん、何か、隠してる?」

 時計の針だけが強く聞こえて。

 「ほんとに、…打ち合わせだよ」
 「何日も、何週間も寮を開けたのに?」

 千景さんと約束した。
 親戚との縁をきちんと切るための、戦い。

 咲を巻き込むわけには行かない。

 せっかく咲いた花を、枯らすわけにはいかない。

 言ったら劇団にも迷惑をかけるかもしれないから、言えない。

 「そういうこともあるよ、…ねぇ、咲、覚えてる?
 ここから向こうの家までどのくらいかかると思う?結構かかるんだよ、移動するだけでも。
 心配かけたのは、本当にごめんなさい。
 親戚連中もいまピリピリしててさ、咲にまで八つ当たり行ったら困るもん。だから、法事の時は連れてくから、少し待ってて」

 咲のまん丸の目が、少し歪む。

 「…」

 疑ってる…?

 「…また、ねぇちゃんは傷つくの?」
 「傷ついてなんかないよ?」
 「おれ、親戚の人達と集まる時のねぇちゃんが、ずっと嫌だった。オレの知ってるねぇちゃんじゃなかったから。
 …でも、おれを守るためっていうのも、どこかでわかってた」
 「ん」
 「オレがいなかったら、違うのかなって、」

 ぎゅっとズボンの裾を握っている咲。

 「そんなこと!」
 「実際言われたんだ。ねぇちゃんの為になるから、って。そう信じて、ずっと生きてた。いろんなお家に行って、馴染めなくて次のとこでは、って、」
 「咲は、悪くない」
 「馴染めないオレが、ねぇちゃんの足手纏いにならないわけがないって、…」
 「そんなこと、あるわけないじゃん」
 「あるよ!だから、…今回だって、…」
 「…っ、」
 「ごめん、ねぇちゃん。…おれ、自信ない」
 「え、」
 「ねぇちゃんのこと、傷つけたいわけじゃない。でも、おれが、ねぇちゃんと向き合おうとする度にねぇちゃんは、すごく悲しそうで…」
 
/ 555ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp