• テキストサイズ

3月9日  【A3】

第14章 冬桜


 いづみちゃんが促してくれたから、ようやく談話室に入ったんだけど……

 目の前には既に帰ってきていたメンバーと、横に陣取るのは先ほど鉢合わせした咲と真澄くん。
 頭の上には、亀吉。
 秋組のみんなはお風呂。
 いづみちゃんは、帰ってきてくれたからと腕によりをかけて、カレーの支度をしてくれている。

 支配人まで私を取り囲んでいる。

 ビンビンと刺さる視線が痛い。

 「あ、の…」

 き、気まず過ぎる。

 だって、私ただの寮母だぞ?
 寮母っていっても、きちんと仕事できてなかったかもしれないけど。

 監督でもなければ、支配人でも、役者でもないのに。
 大道具でなければ、音声さんでも、衣装さんでも、クリエイターでもないのに。

 「…心配してました」

 先に口を開いたのは、綴くん。
 それから、夏組のみんな。

 「僕も心配してました。…今はいないけど、天馬君も至さんもみんな心配してました。帰ってきてくれてよかったです」
 「むっくん…」
 「めいがいなくて、毎日さんかく足りなかったぁ」

 幸君だけが何も言わない。
 
 「電話くらい、出てくれてもよかったじゃないっすか。繋がったのは、あの日のたった一回だけ。
 もう、帰ってこないんじゃないかって、…」

 綴くんの言葉になにもかえせない。
 だけど、何か言わなくちゃ。

 「それは、」

 言いかけた時、口を開いたのは幸くん。

 「それは?なに?」

 少し冷たい言い方に、それすら仕方ないと思いながら答える。
 …我ながら自分勝手だ。

 「しばらく帰ってこられないんだろうって、自分でも分かってたから。…みんなの声きいてたら、帰りたくなっちゃうでしょ?」

 「…呆れた」
 「ゆきくん…」
 「ゆっきー、」

 「オレたち、どんな思いで千秋楽やったと思う??

 ずっと本気でやってたけど、
 千秋楽にはきっとあんたが来てくれるって信じてやってたんだよ?!

 オレたちのこと見て、アンタがどんなふうに思って喜んでくれるんだろうって、だから頑張ったのに!

 …帰ってくるの、遅すぎだ。

 馬鹿」

 そう言われたって、仕方がない。

 「…ごめん」
/ 555ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp