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3月9日  【A3】

第14章 冬桜


 ブザーが鳴って真っ暗になった世界に、スポットライトがつく。

 一筋の光で照らし出された舞台。

 …始まった。

 知らないメンバーももちろんいたけど、

 …左京さんも、

 …臣くんもいる。

 なんだか、そのことに胸が熱くなった。

 4人中2人は知らない子だったけど、片方は繊細ないい演技をしていて、こんないい演技をするなんて、天馬くんが喜びそうなメンバーだと思った。

 こんな演技をするなら、綴くんも筆が乗るに違いない。

 この子が主演の舞台もいつかみてみたい。


 それから、もう1人は…


 …。



 隣に座った万里くんを見て、
 その膝の上の拳に力が入ってくのを見て、

 あぁ、そうかって、

 思った。

 だって、何も知らない私だって、

 力強く、

 その世界に惹き込まれた。

 その子の思いが熱くて痛くて、

 身が焦がれるような、そんな演技だった。

 キラキラと光って見えた。


 総じて、みんないい演技をしていたと思う。

 だけど、

 今まで見た4人のポートレイトのうち、
 何よりグッときたのは、

 1番、より気持ちがのっていたのは、

 …。

 万里くんがどうして彼に執着するのか、何となくわかってしまった。
 
 だって、

 今の万里くんと彼は、対極にいるような気がする。

 初めて会ったときから万里くんは、世の中を少し冷めたような目で見ていた。

 何でも知ってるような、全て手に入れてしまったような、そんな諦めににもどこか似たような、寂しい目だった。

 …なんて、

 「いい演技、するでしょ」

 もう一度暗くなった舞台に目を向けていると、いづみちゃんが私だけに聞こえるように言った。

 「うん…すごく、すごくよかったよ」

 春組や夏組ともまた違う、秋組はどこか頼もしくて安心するような演技だ。

 ここに万里くんが入ったらきっともっと、説得力を持つのに。

 …なんて、思ってしまった。

 万里くんを含めた5人のお芝居が見たいな。

 綴くんの描いた世界の中で、舞台の上で生きるみんなのことが早く見たい。
 強く強く、そう思った。


 だから…

 ねぇ。

 どうか、

 また火を灯して。

 万里くんの気持ちに、情熱という火を。

 灯りを。


 

 
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