第14章 冬桜
「芽李ちゃん?!」
「ただいま」
「おかえり!!!!」
ぎゅーと抱きしめられる。
フワッと香ったスパイスの香り。
「帰ってくるの遅すぎ!もう新しい季節来ちゃうってば、夏組のみんなも寂しがってたんだからね!」
「うん、ごめん」
「…って、芽李ちゃん、こっちは摂津万里君って言って秋組のリーダー任せてたんだけど、辞めるって言ってて」
「うん」
パッと離された腕、万里君に詰め寄るいづみちゃん。
「やめるって本気なの?」
「あー、うん。秋組もMANKAIカンパニーもやめ」
「ちょっと、待って。せめて理由をおしえて」
「いづみちゃん?」
「芽李ちゃん、今ちょっと重要なとこだから、待ってて」
「元々兵頭に勝つために始めたから、芝居で余裕で勝ってるって分かれば、やる意味もねぇっていうかって」
「じゃあ、本当に十座くんに勝ってるかどうか、自分で確かめてみたら?」
「今までの稽古見りゃ、十分だろ?」
「十座くんの、『ポートレイト』は見たことないでしょ?」
「…」
黙ってしまった万里君とは反対に、私は少しワクワクしてきた。
ポートレイトって、なんだ?!
「十座くんに勝ったって思ってるなら、直接見て確かめてみなよ。
このままいなくなったら、まるで結果が知りたくなくて逃げたみたいだよ」
さすがいづみちゃん、こんなふうに言われたら万里くんだって、火がつく。…はずだ。
って言うか、兵頭十座くんめっちゃ気になるな。
万里くんが唯一、熱くなれる相手。
どんな子なんだろう。
「わぁったよ、確かめりゃ良いんだろ」
ぎゅっと握りしめた荷物の持ち手。
「さ、芽李ちゃんもいこ!
秋組の子たち紹介したいし、他のみんなも待ってるし」
「うん」
「それから、…あー、やっぱり直接見てもらった方がいいかも」
3人で歩きながら、これまでの経緯を聞く。
万里くんは、少しだけ気まずそうにしていた。
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「…‥どうせ見たって結果なんて変わんねぇのによ」
座席についてからも、ぶつくさいってる。
これから秋組がするポートレイトは、雄三さんの劇団の前座だそうだ。
「いいから」
「…」