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3月9日  【A3】

第14章 冬桜


 「芽李ちゃん?!」
 「ただいま」
 「おかえり!!!!」

 ぎゅーと抱きしめられる。
 フワッと香ったスパイスの香り。

 「帰ってくるの遅すぎ!もう新しい季節来ちゃうってば、夏組のみんなも寂しがってたんだからね!」
 「うん、ごめん」
 「…って、芽李ちゃん、こっちは摂津万里君って言って秋組のリーダー任せてたんだけど、辞めるって言ってて」
 「うん」

 パッと離された腕、万里君に詰め寄るいづみちゃん。

 「やめるって本気なの?」
 「あー、うん。秋組もMANKAIカンパニーもやめ」
 「ちょっと、待って。せめて理由をおしえて」
 「いづみちゃん?」
 「芽李ちゃん、今ちょっと重要なとこだから、待ってて」
 「元々兵頭に勝つために始めたから、芝居で余裕で勝ってるって分かれば、やる意味もねぇっていうかって」
 「じゃあ、本当に十座くんに勝ってるかどうか、自分で確かめてみたら?」
 「今までの稽古見りゃ、十分だろ?」
 「十座くんの、『ポートレイト』は見たことないでしょ?」
 「…」

 黙ってしまった万里君とは反対に、私は少しワクワクしてきた。
 ポートレイトって、なんだ?!

 「十座くんに勝ったって思ってるなら、直接見て確かめてみなよ。
 このままいなくなったら、まるで結果が知りたくなくて逃げたみたいだよ」

 さすがいづみちゃん、こんなふうに言われたら万里くんだって、火がつく。…はずだ。

 って言うか、兵頭十座くんめっちゃ気になるな。

 万里くんが唯一、熱くなれる相手。
 どんな子なんだろう。

 「わぁったよ、確かめりゃ良いんだろ」

 ぎゅっと握りしめた荷物の持ち手。

 「さ、芽李ちゃんもいこ!
 秋組の子たち紹介したいし、他のみんなも待ってるし」
 「うん」
 「それから、…あー、やっぱり直接見てもらった方がいいかも」

 3人で歩きながら、これまでの経緯を聞く。
 万里くんは、少しだけ気まずそうにしていた。




ーーーー
ーー



 「…‥どうせ見たって結果なんて変わんねぇのによ」

 座席についてからも、ぶつくさいってる。
 これから秋組がするポートレイトは、雄三さんの劇団の前座だそうだ。

 「いいから」
 「…」
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