第13章 ※不断桜
「本当は、一回で終わらせたかったんだけど…。
君を引き留めた割に、敵さんもなかなかしぶとくてね。
全然尻尾を出さないんだ。
本格的に動くのは、やっぱり君の提案した"春から"なのかなって。
それならここに、君を縛り付けておくのも可哀想だからね」
「…千景さんの言うところの悪の組織の話?」
「そうそう」
「叔父さん、そんなに悪い人だったんだ」
「………というよりは、
…簡単に言うと、お金のために悪い人に騙されちゃったんだよ。
君って言う、取引の道具を手に入れちゃったからね」
声を落としていう千景さんに、私も合わせて私も声を抑える。
「千景さんは、何者なの」
「君の目にはどう映ってるの?」
「よくわからない人だなって」
「まぁ、よく言われる」
「…でも、優しい人」
「それは、言われたことない」
切なげに目を細めた彼に罪悪感。
「…信じられなくて、ごめんなさい。一瞬でも疑っちゃって、勝手に傷ついて、ボロボロになって」
謝るわたしもきっとずるい。
「こんな話、信じる方がすごいでしょ」
そう言ってくれるあなたは優しい人。
「千景さんは、わたしをいつも助けてくれる」
初めて北海道を出た時も、カンパニーのフライヤーを拾っていた時も、今も…
大袈裟じゃなく、正義の味方だって。
「…そう、思ってます」
「殊勝だね」
本州へ着いたと言うアナウンスに、自分よりも先にわたしのベルトをはずして、
それが終わると、今度はやっと自分のに手をかけて、
エスコートをするようにわたしの手を引いて、
荷物までも、そっと持ってくれた。
そんなあなたに、こんな気持ちを抱くのなんて殊勝でも、奇特でもなく、当然のことでしょ?
天鵞絨町を始めて知ったあのバス停で、
「じゃあ…また、春に」
寂しそうに千景さんが言うから。