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3月9日  【A3】

第13章 ※不断桜


 「【このまま、空港に送っていただくわけには?
 夏組が公演中で昨日慌てて出てきたものだから、みんな心配してると思うし】って、君言ってなかったっけ?」
 「っ、」
 「悲しませたお詫びに、向こうまで俺が直々につれていってあげる。それで許してくれない?」
 「…ん」
 「そう。なら、支度しておいで」

 そんな優しい目を初めて見た。
 今まで見たどんな千景さんよりも、すごく優しく笑ってくれた。





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 「千景さんも、着替えたんですね」
 「まぁね」

 千景さんがとってくれたチケットで今日中には、本州に戻れる事になった。
 …と言われたのが、今から数時間ほど前。

 「さっきのラフなのもカッコよかったですけど、こういうカッチリしたスーツの印象が強かったので、…ふふ、初めて会った日のことを思い出しますね」

 単純すぎる私は帰れるとわかって、いつもの調子を取り戻しつついた。

 「そう?初めて会った日って、君が飛行機に乗ってもたついていた時のこと?」

 相変わらず飛行機のシートベルトは付けるのが難しくて、結局千景さんにやってもらった。

 「言い方があると思います、失礼」

 ムスッとしてみると、ゴメンゴメンと本当に思ってるのか分からない返事が返ってくる。

 「だけど、事実でしょ」

 …ほら、やっぱり思ってない。

 「声、やっと聞きとりやすくなったね」
 「帰れるって思ったら、なんか…すごく気持ちが軽くなって、準備しながら千景さんと話してるうちに、自分こんな声してたんだって思い出したら、ちゃんと出るようになってました」

 というと、安心したように笑って返す。

 「…ねぇ、芽李」
 「なんですか?」
 「忘れないでね。一旦ちゃんと、お別れしてくるんだよ?」
 「…」
 「春までは待つけど、それから先はどのくらいかかるかわからない。
 傷つけたのは俺だけど…あれで壊れてちゃ、この戦いは終わらないよ」
 「戦いが、終わらないって…?」
 「あの叔父さんと君の縁を切るための戦い。君が、家族とちゃんと過ごせるようになるための、戦い」
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