第13章 ※不断桜
「【このまま、空港に送っていただくわけには?
夏組が公演中で昨日慌てて出てきたものだから、みんな心配してると思うし】って、君言ってなかったっけ?」
「っ、」
「悲しませたお詫びに、向こうまで俺が直々につれていってあげる。それで許してくれない?」
「…ん」
「そう。なら、支度しておいで」
そんな優しい目を初めて見た。
今まで見たどんな千景さんよりも、すごく優しく笑ってくれた。
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「千景さんも、着替えたんですね」
「まぁね」
千景さんがとってくれたチケットで今日中には、本州に戻れる事になった。
…と言われたのが、今から数時間ほど前。
「さっきのラフなのもカッコよかったですけど、こういうカッチリしたスーツの印象が強かったので、…ふふ、初めて会った日のことを思い出しますね」
単純すぎる私は帰れるとわかって、いつもの調子を取り戻しつついた。
「そう?初めて会った日って、君が飛行機に乗ってもたついていた時のこと?」
相変わらず飛行機のシートベルトは付けるのが難しくて、結局千景さんにやってもらった。
「言い方があると思います、失礼」
ムスッとしてみると、ゴメンゴメンと本当に思ってるのか分からない返事が返ってくる。
「だけど、事実でしょ」
…ほら、やっぱり思ってない。
「声、やっと聞きとりやすくなったね」
「帰れるって思ったら、なんか…すごく気持ちが軽くなって、準備しながら千景さんと話してるうちに、自分こんな声してたんだって思い出したら、ちゃんと出るようになってました」
というと、安心したように笑って返す。
「…ねぇ、芽李」
「なんですか?」
「忘れないでね。一旦ちゃんと、お別れしてくるんだよ?」
「…」
「春までは待つけど、それから先はどのくらいかかるかわからない。
傷つけたのは俺だけど…あれで壊れてちゃ、この戦いは終わらないよ」
「戦いが、終わらないって…?」
「あの叔父さんと君の縁を切るための戦い。君が、家族とちゃんと過ごせるようになるための、戦い」