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3月9日  【A3】

第13章 ※不断桜


 「芽李、音にしなくていいから、どうしてそうなったか教えてくれ」

 本当にわかんないの?
 自分で言ってきたくせに。

 そう思いつつ、

 口を動かす。

 「[千景さんが、言った。私は、担保だから、余計なことはするなって、…体のことは心配しなくてもお腹には、ちゃんとご飯入れてましたから]…か。

 …まったく、君は本当にそそっかしいというか、何というか。

 そんな顔して帰ったら向こうの人たち、すごく心配するんじゃないか?」

 さっと、伸びてきた手が優しく私の頬に触る。

 「こっちにきて、初めて泣けたんじゃない?」

 涙の跡を拭う。

 「あの日、聞いてなかったの?俺が肩叩いた時、うなづいただろ?」

 ポケットから出した、小さな機械をコトッと差し出してきた千景さんに、私は首を傾げる。

 「君が帰りたいって言うから、少し早めにアクションを起こしたんだけど」
 「…ぇ」
 「本当なら、もう少しじっくり時間を掛けたかったんだけど。はじめに言ったでしょ。君を解放してあげるって。まぁ、今回のは初手だから、もう少し協力してもらう必要があるけど」

 何を言ってるか、よくわからなくて。

 「録音しておいて、良かったよ」

 カチッと千景さんがその機械のボタンを押すと、千景さんが帰って来なくなった日の、ことがフラッシュバックする。

 【『わかったならいい。君は、能天気でも聞き分けのいい子らしいね。…っと、そろそろ時間だ。
 ところで、やることが無いって君は言ってたけど、本当にそう?』
 『君…ご飯ちゃんとたべてる?』
 『働くも、なにも、まずはそっちをきちんとしてくれないかな?
 君の叔父さんがお金を返せなかった時、君を市場にだすために健康状態が悪いと、採算合わなくなっちゃうから』
 『…』
 『………っと。こんな感じかな。もういいよ、芽李、記録は撮れたし。ここまですればあいつらも、満足なんじゃない?
 俺はこれをネタに、君が帰れるよう算段をつける』

 トントンと叩たくような音。

 『2週間くらいかかるとは思うけど、その間君は、帰る準備をして置くんだ』】

 そこで、録音が終わる。
 俯かせていた視線をあげれば、千景さんの目と合う。

 「もしかして、と思ったけど…本当に聞いてなかったのか?」

 コクンとうなづくと、綺麗な顔が歪んだ。
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