第13章 ※不断桜
千景さんは、あの日から帰ってこなくなった。
そりゃそうだろう、あんな話した後だし、帰ってくるわけがない。
…人の声を聞かなくなって、どのくらいだろう?
…話をしなくなって、どのくらいだろう。
外の世界はあまりにも眩しくて、見ていたくなくて家にいる時はカーテンで遮断している。
外に出るのはゴミ出しくらいで、必要最低限にしか出ない。
寮を出る時まだらでも感じていた食べ物の味が、今では全く感じなくなった。
寒いも暑いも何も感じない。
こんな生活、あの頃と、変わらない。
生きていけない恐怖はないけど、逆に言えばそれしか変わらないんだ。
お腹は空かないけど無理にでも詰め込んで、何とか生きて、嫌でもトイレには行きたくなって。
不毛な生活に、そろそろリタイアしてもいいんじゃ無いかと思い始めていた。
必要な家事いがい動かないせいですっかり筋力がおちたんだろう。
立ちあがろうとして、つまづいた拍子に真っ暗な部屋に灯りがついた。
ぼうっと立ち込める様な青白い光だった。
聞き慣れた様な、懐かしい声がする。
その青白い光から聞こえてきた。
テレビすらも、しばらくつけてなかったことに今更気づいた。
久しぶりに見たテレビは、バラエティ番組で。
その中央に映る少年に、そっと手を伸ばす。
「てんまくん…」
胸が締め付けられる様な、久しぶりにこんな感覚がした。
みんなにどうしても会いたくなった。
声が聴きたくなった。
…携帯、何処に置いたっけ。
みんなの、声が聴きたい。
久しぶりに開けたキャリーケースの奥に入っていたのを見つけ、
電源を入れる。
かろうじてついた明かり。
満タンにして行ったはずなのに、電池は30%を切っていた。
充電器を探してる暇なんてない。
着信も山の様に入っていた。
私が寮をでて、1週間した後くらいからだ。
メッセージも100件を超えている。
なんだか、それだけで泣けてきた。
誰にかけよう?
そう思ってた時、ちょうど良く着信が鳴って。
名前も見ず、勢いで出る。
『繋がった』
聞いたことのない声。
画面を確認すると、知らない番号だった。
それなのに、
『ちょっと変われ!』
『いや、そこはスピーカーにしろよ!』
みんなの声もする。