第13章 ※不断桜
「鍋か」
「はい」
「残念だけど、夜にも仕事が入ってるんだ」
「そう、」
それなら、この人は何しに帰ってきたんだろう。
「なんだと思う?」
「え?」
「俺が何の用で帰ってきたんだろうって、思ってるんじゃない?」
「まぁ、」
「君の監視」
…まさか、とギョッとする。
必要最低限のうちの、ソファに腰掛けてノートパソコンを開いてる。
「勝手なことされたら困るし」
カタカタと打たれるキーボードの音に、身を固める。
「勝手なことって、?」
パソコン越しに見えた目。
「例えば、この家から逃げたりとか?」
「そんなことしませんよ」
「なら、いいけど」
「あの、」
「なに?」
「えっと、そろそろ働き口とか、…、」
「必要ないと思うけど、あぁ、生活費足りなくなってきた?」
「違くて、その、」
「はっきり言ったらどう?」
言葉を見つけられずに、目を伏せる。
「…千景さんは外で、働いてるじゃないですか」
「…」
「私は家にいるだけで、掃除も直ぐ終わっちゃうし、買い物だって定期的に届くし、やることもなくて、怖くなるんです」
「そう、」
「千景さんと、春から暮らすなら…結婚するなら、私はやっぱりちゃんとあなたと向き合いたいし、ちゃんと好きになった人と結婚したい」
「…能天気」
「え?」
「言われたことない?この状況でよくそんな事いえるね、君」
パタンと閉じられたパソコン。
「ここは、いわば君を閉じ込めるための監獄」
「かん、ごく?」
「この際だから、はっきりさせておこうか」
すっと、立ち上がってジリジリと私と距離を縮めていく。
「な、なんですか」
「おかしい、と、思わなかった?」
「え」
「例えば君が北海道を出たあの日、俺が君の名前を知っていた事」
眼鏡の下、ギラッと眼孔鋭くこちらを睨む。
「例えば俺が劇団のチラシを拾うのを手伝ったあの日、」
声のトーンが変わる。
「それから、君の叔父さんが弟さんの写真を大量に持っていた事」
この間のことが、フラッシュバックする。
「弟さんが、劇団に所属していたことを知っていたこと」
「あ…、」