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3月9日  【A3】

第13章 ※不断桜


 千景さんと決めたルールは、

 お互いにそんなに多いものではない。

 彼からの提案、

 ・互いに干渉しないこと
 ・無闇矢鱈に聞かないこと
 ・俺のことは絶対好きにならないこと

 私からの提案 

 ・少なくとも年に4回は本州に行く権利が欲しい

 彼の三つの条件に対し、私は他に思い付かなかった。

 「それだけでいいの?俺も男だけど」

 という千景さんの言葉に、彼が提示した約束に、全てが含まれているような気がして、まぁいいかと思った。

 …と伝えるとため息をつかれた。

 「それに、千景さん女性苦手なんですよね?なら、余計大丈夫じゃないですか? 私、こんなんだし」
 「…そう。まぁ、それなら何も言わない」

 住むための条件を決めるといわれても、千景さんはきっと私の嫌なことをするはずもないと、どこか確信があったから。

 相手が千景さんだったから、咲を守るための親戚からの条件だったとしても、大丈夫だと思える。

 事実、

 私たちに与えられた家には、"仕事柄"忙しくて帰れないことも多いと言った千景さんは、ほんとうに、たまに来ては顔を出す事くらいしかなかった。

 それでも、

 例えばこれが、

 MANKAI寮で春夏組のみんなに出会う前だったら、きっと、何も思わずにいられたのかもしれない。

 だけど、あの寮の賑やかさを知ってしまったら…。
 贅沢だと分かっていても、寂しさを感じてしまう。

 「千景さん、帰って来ればいいのに」

 私物である旅行用のカバンと、必要最低限の家具しかないこの場所では、掃除でさえすぐに終わってしまう。

 おかげでピッカピカだ。

 至さんがいたら、すぐにごちゃごちゃになるに違いないと、こんな時でさえ、みんなのことを考えてしまう。
 ちがうか、…こんな時だから。こそ…。

 ガチャガチャと、

 玄関から音がして、センチメンタルな自分を振り払うように気合を入れた。

 「おかえりなさい!千景さん!」
 「あぁ」

 いつものように、スーツを身に纏って涼やかに笑う。

 「今日はど」

 どのくらいいられるのか、って聞いてもいいのだろうか。

 「ん?」
 「ドラマに、すごく辛そうな鍋が映ってて、それを再現しようと思います!」
 「そっか」
 「千景さんは、か、辛いの好きですか?」

 我ながら、下手な誤魔化し方だ。
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