第13章 ※不断桜
千景さんと決めたルールは、
お互いにそんなに多いものではない。
彼からの提案、
・互いに干渉しないこと
・無闇矢鱈に聞かないこと
・俺のことは絶対好きにならないこと
私からの提案
・少なくとも年に4回は本州に行く権利が欲しい
彼の三つの条件に対し、私は他に思い付かなかった。
「それだけでいいの?俺も男だけど」
という千景さんの言葉に、彼が提示した約束に、全てが含まれているような気がして、まぁいいかと思った。
…と伝えるとため息をつかれた。
「それに、千景さん女性苦手なんですよね?なら、余計大丈夫じゃないですか? 私、こんなんだし」
「…そう。まぁ、それなら何も言わない」
住むための条件を決めるといわれても、千景さんはきっと私の嫌なことをするはずもないと、どこか確信があったから。
相手が千景さんだったから、咲を守るための親戚からの条件だったとしても、大丈夫だと思える。
事実、
私たちに与えられた家には、"仕事柄"忙しくて帰れないことも多いと言った千景さんは、ほんとうに、たまに来ては顔を出す事くらいしかなかった。
それでも、
例えばこれが、
MANKAI寮で春夏組のみんなに出会う前だったら、きっと、何も思わずにいられたのかもしれない。
だけど、あの寮の賑やかさを知ってしまったら…。
贅沢だと分かっていても、寂しさを感じてしまう。
「千景さん、帰って来ればいいのに」
私物である旅行用のカバンと、必要最低限の家具しかないこの場所では、掃除でさえすぐに終わってしまう。
おかげでピッカピカだ。
至さんがいたら、すぐにごちゃごちゃになるに違いないと、こんな時でさえ、みんなのことを考えてしまう。
ちがうか、…こんな時だから。こそ…。
ガチャガチャと、
玄関から音がして、センチメンタルな自分を振り払うように気合を入れた。
「おかえりなさい!千景さん!」
「あぁ」
いつものように、スーツを身に纏って涼やかに笑う。
「今日はど」
どのくらいいられるのか、って聞いてもいいのだろうか。
「ん?」
「ドラマに、すごく辛そうな鍋が映ってて、それを再現しようと思います!」
「そっか」
「千景さんは、か、辛いの好きですか?」
我ながら、下手な誤魔化し方だ。