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3月9日  【A3】

第12章 ※長州緋桜


 うなづいた後、あれよあれよと話が進んだ。

 「いやぁ、よかったよ。君のおかげで、彼も仕事により集中してくれることだろうからなぁっ。それじゃあ、あとは若い物同士、うまくやるんだぞ」

 類は友を呼ぶっていったけど、お友だちのほうがまだいい性格をしているらしい。
 
 「芽李、婚約破棄なんてことになったら…わかっているな?しっぱいはするな」

 去り際にそう、他に聞こえないように吐き捨てて行った親戚に、
そんなことを思った。

 隣の男は、涼しい顔でふたりの背中を見送っている。

 「さぁ、じゃあ俺たちも向かおうか」
 「あの、」
 「何?」
 「偶然ですか?」
 「…………必然、かな。ここは、あの2人の御用達だ。話はまた後でしよう」

 うなづくことしかしなかったのは、わたしにとって、この人が信用できる人だったから。

 「はい、」



ーーーーーーーー
ーーーーー
ーー



 「それで、君は劇団にいるんじゃなかったの?」
 「…」
 「まぁ、俺には関係ない話だけど」

 その人の運転で、知らない道を行く。

 「…あなたこそ、何者なんですか?盗聴器の発見するやつ持ってたりとか、…私が困ってる時に現れたりとか」
 「今、困ってたんだ」
 「知らない人と、結婚させられるところでしたから」
 「あぁ、残念ながら婚約破棄はできないよ。君が困っているとしてもね」
 「え…」
 「まぁ、でも、俺でよかったんじゃないかな?そこのダッシュボード開けて」

 言われるがまま、開く。

 「なにこれ、」
 「君が婚約させられそうになった、バカ息子。俺でよかったでしょ?」
 「…」

 ダッシュボードに入っていたのは、とある会社の記事。
 ふくよかな体型と、意地の悪い顔が写ってる。

 「う…」

 いかにもな、写真だ。

 「でも、…わたしが知ってる、あなたの名前は、さっき叔父様達の前で言っていたものとは違いますよ、」
 「まぁね」
 「どうしてですか、」
 「生きていくのに必要だから、君も覚えはあると思うけど?
 "佐久間"と、"酒井"使い分けてる。」
 「それは、仕方がなくて、」
 「なら俺もそうだ。君の前では君に教えた名前が本当。俺の名前、覚えてる?」

 「卯木千景さん、ですよね?」

 満足げに笑ったその人は、最近、わたしのピンチの時に現れる人。
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