第12章 ※長州緋桜
うなづいた後、あれよあれよと話が進んだ。
「いやぁ、よかったよ。君のおかげで、彼も仕事により集中してくれることだろうからなぁっ。それじゃあ、あとは若い物同士、うまくやるんだぞ」
類は友を呼ぶっていったけど、お友だちのほうがまだいい性格をしているらしい。
「芽李、婚約破棄なんてことになったら…わかっているな?しっぱいはするな」
去り際にそう、他に聞こえないように吐き捨てて行った親戚に、
そんなことを思った。
隣の男は、涼しい顔でふたりの背中を見送っている。
「さぁ、じゃあ俺たちも向かおうか」
「あの、」
「何?」
「偶然ですか?」
「…………必然、かな。ここは、あの2人の御用達だ。話はまた後でしよう」
うなづくことしかしなかったのは、わたしにとって、この人が信用できる人だったから。
「はい、」
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「それで、君は劇団にいるんじゃなかったの?」
「…」
「まぁ、俺には関係ない話だけど」
その人の運転で、知らない道を行く。
「…あなたこそ、何者なんですか?盗聴器の発見するやつ持ってたりとか、…私が困ってる時に現れたりとか」
「今、困ってたんだ」
「知らない人と、結婚させられるところでしたから」
「あぁ、残念ながら婚約破棄はできないよ。君が困っているとしてもね」
「え…」
「まぁ、でも、俺でよかったんじゃないかな?そこのダッシュボード開けて」
言われるがまま、開く。
「なにこれ、」
「君が婚約させられそうになった、バカ息子。俺でよかったでしょ?」
「…」
ダッシュボードに入っていたのは、とある会社の記事。
ふくよかな体型と、意地の悪い顔が写ってる。
「う…」
いかにもな、写真だ。
「でも、…わたしが知ってる、あなたの名前は、さっき叔父様達の前で言っていたものとは違いますよ、」
「まぁね」
「どうしてですか、」
「生きていくのに必要だから、君も覚えはあると思うけど?
"佐久間"と、"酒井"使い分けてる。」
「それは、仕方がなくて、」
「なら俺もそうだ。君の前では君に教えた名前が本当。俺の名前、覚えてる?」
「卯木千景さん、ですよね?」
満足げに笑ったその人は、最近、わたしのピンチの時に現れる人。