第12章 ※長州緋桜
「それより、今日の君は随分」
「…わたしの趣味じゃないですから」
「ははは。似合ってるよ。可愛い」
「…千景さんも、今日は雰囲気ちがいますね」
「まぁね」
「初めて会った時、いってませんでしたっけ?女の人が嫌いって。どうしてこの話受けようと思ったんです?」
窓ガラスに映る景色を、見ながら問う。
「だからだよ。知らないやつより、君の方が幾分かましってだけ。女よけにもなるしね」
どうりで。
男性な顔立ちに、さりげなくおしゃれなスーツとメガネ。
黙ってれば爽やかだし。
口を開くと意地悪だけど。
助けてもらったのも、事実だし。
「千景さん」
「ん?」
「わたし、お願いがあるんですけど」
「内容によるな」
「このまま、空港に送っていただくわけには…って、大変申し訳ないのですが、今夏組が公演中でして。昨日慌てて出てきたものだから、みんな心配してると思うし…」
「それは、君が携帯の電源を入れてないから、っていうのが理由じゃないのか?」
「…声を聞けば、みんなに会いたくなっちゃうし。
連絡くれてるかも分かんないけど、」
「…今は無理かな。時期じゃない」
「時期?」
「大丈夫、いつか君のこと本当の意味で解放してあげるから」
赤信号でとまって、優しい目と合う。
「…どうして」
聞こうと思った言葉は、あまりにも切ない顔に出てこなくなってしまった。
「俺にとっても、重要な案件なんだ。すまない」
「…はい」
もうすぐで信号が、変わってしまう。
「まぁ、でも。とりあえず1ヶ月ちょっと、こっちにいてくれ。そしたら、春まであっちにいてもいいから」
「1ヶ月ちょっと、?」
夏組の千秋楽いつだっけ…。
「あぁ」
「…‥わかりました」
1ヶ月ちょっと、か。
そしたら。
やっぱり、間に合わない。
「それから、春から本格的に一緒に住むなら、お互いルールも決めた方がいいと思うんだ」
「はい、」
「考えておいて。俺と住むための、ルール」
また走り出した車に、わたしは必死で浮かんできた、彼の顔を消す。
「了解、です。」
「心配しなくても、悪いようにはしないさ」
アクセルを踏んだ千景さんに、言葉を飲み込む。
「よろしくお願いします、これから」