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3月9日  【A3】

第12章 ※長州緋桜


 「それより、今日の君は随分」
 「…わたしの趣味じゃないですから」
 「ははは。似合ってるよ。可愛い」
 「…千景さんも、今日は雰囲気ちがいますね」
 「まぁね」
 「初めて会った時、いってませんでしたっけ?女の人が嫌いって。どうしてこの話受けようと思ったんです?」

 窓ガラスに映る景色を、見ながら問う。

 「だからだよ。知らないやつより、君の方が幾分かましってだけ。女よけにもなるしね」

 どうりで。

 男性な顔立ちに、さりげなくおしゃれなスーツとメガネ。
 黙ってれば爽やかだし。

 口を開くと意地悪だけど。

 助けてもらったのも、事実だし。

 「千景さん」
 「ん?」
 「わたし、お願いがあるんですけど」
 「内容によるな」
 「このまま、空港に送っていただくわけには…って、大変申し訳ないのですが、今夏組が公演中でして。昨日慌てて出てきたものだから、みんな心配してると思うし…」
 「それは、君が携帯の電源を入れてないから、っていうのが理由じゃないのか?」
 「…声を聞けば、みんなに会いたくなっちゃうし。
 連絡くれてるかも分かんないけど、」

 「…今は無理かな。時期じゃない」

 「時期?」
 「大丈夫、いつか君のこと本当の意味で解放してあげるから」

 赤信号でとまって、優しい目と合う。

 「…どうして」

 聞こうと思った言葉は、あまりにも切ない顔に出てこなくなってしまった。

 「俺にとっても、重要な案件なんだ。すまない」
 「…はい」

 もうすぐで信号が、変わってしまう。

 「まぁ、でも。とりあえず1ヶ月ちょっと、こっちにいてくれ。そしたら、春まであっちにいてもいいから」
 「1ヶ月ちょっと、?」

 夏組の千秋楽いつだっけ…。

 「あぁ」
 「…‥わかりました」

 1ヶ月ちょっと、か。

 そしたら。
 やっぱり、間に合わない。


 「それから、春から本格的に一緒に住むなら、お互いルールも決めた方がいいと思うんだ」
 「はい、」
 「考えておいて。俺と住むための、ルール」


 また走り出した車に、わたしは必死で浮かんできた、彼の顔を消す。


 「了解、です。」


 「心配しなくても、悪いようにはしないさ」


 アクセルを踏んだ千景さんに、言葉を飲み込む。


 「よろしくお願いします、これから」


 

 
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