第12章 ※長州緋桜
どんどんどんどんと、けたたましくドアがたたかれる。
思い出にいたせいで、それが夢だったのか、起きていたのか正直わからない。
「はい、」
「朝だ。出かけるぞ」
「はい…」
初めに連れて行かれたのは、入ったこともないような高級サロン。
後にいろんな人たちが入ってきて、勝手に手が加えられていくのを、人ごとのように見ていた。
鏡に映る自分は、今まで見た中でもダントツなほど正気のない顔をしているのに、人の手によってそんなのどうでもいいと言うように、造られていく。
血色の良い肌、
長いまつ毛、
形のいい眉、
ふっくらとした唇。
切り揃えられた髪が、緩く巻かれる。
はじめまして、知らない私。
大きな鏡の前で、私は色んな服を当てられて、これはいいあれはよくないと、大勢によって決められた服を、やっと手渡される。
私のらしくない、ワンピース。
高くて細いヒールの靴。
あちこちにつけられた、アクセサリー。
それから、何も入らないような小さい鞄。
「大変お綺麗です」
鏡越しに言われても、実感がない。
「見れるようになったじゃないか」
その言葉に嬉しさも何もない。
例えばこれが、幸くんの作ったワンピースだったなら、
隣を歩くのが、
今からお嫁さんになりにいくのが、
…。
そこまで想像してやめた。
あまりにも、惨めに思えて。
タクシーに乗せられてついたのは、大きなホテル。
名前だけは聞いたことがある、大手だ。
「やぁ、おまたせして申し訳ない」
親戚が見たこともない顔で、愛想をふってる。
その声に立ち上がったのは、見たことがない威圧感のある、年配の男性だった。
…類は友を呼ぶらしい。
「すみませんな、突然よびだしてしまって。そちらが例のお嬢さん?」
「ええ、どうですかな」
「聞いてた以上の…いや、なんでもない」
「さぁ、挨拶しなさい」
あの頃のように、大人に好かれるよう笑顔を浮かべて。
「はい、…佐久間、芽李です。叔父様には、大変幼い頃からよくしていただいて、今でもこうして気にかけていただいているんです。こんな私に、お見合いなんて縁のない物だとおもっていましたので、こう言う機会をいただけて大変嬉しくおもっております」
ペラペラと嘘を並べる。