第3章 支那実桜
何年も前の盆踊りのチラシが貼ってあるくらいで、もったいないなって思ってた。
「ずっと思ってたことがあるんですけど、劇場の前の掲示板ってここのものだったりしないんですか?」
だいぶ先どり夏祭りのチラシをみつけて、セピアな色によくみたら数年時を止めて日に焼けていたことに気づいたのは、かれこれ2ヶ月前のことだった。
「掲示板ですか?」
支配人だって、このキョトン顔だ。
私だって今まで思いつかなかった自分に、キョトンとしたい。
「だいぶ今更ですけど、この寮の中で悶々と事務作業してるだけじゃ入ろう、入りたいと思ってくれる人も気付かないんじゃないかと思って」
一旦てをとめる。
「たしかに、今の惨状のこの劇団に移ってきてくれる物好きなんて現れないでしょうし…」
無精髭を触りながら、悩んでる支配人を後押しするように言う。
「そうだ!手作りのポスター描きましょうよ!劇団新聞みたいなのつくって貼るとか!」
私の意見に、それでも重い腰をあげない支配人。
でもさ、そろそろどうにかしないとまずいんじゃないの?
…ねぇ、支配人。
「そうしましょう!
私、今日の帰り文房具とかいろいろ材料揃えますね!
支配人は、掲示板の利用許可取ってください!」
いつかじゃなくて、今始めないと。
先延ばしじゃダメなんだよ、半年経って変わらなかったんだから。
「とりあえず、ご馳走様でした!仕事行ってきます!」
支配人をそのままにバタバタと支度をする。
まずは動き出さないと、何も変わらないから。
誰かがやってくれるじゃなくて、この劇団のために今出来ることをしないと。
ほしいものがあるなら、
それが必要なものなら、
尚更、
私自身の力で、たとえ小さくても一歩ずつでも
進まなきゃ行けないことを、ようやく思い出す。
ぬるま湯じゃダメだ。
…私がしっかしないと。
じゃないとまた、無くしてしまうかもしれない…ー。
ーーーーー
ーー
…監督へのオファーと、劇団員集め立ち止まってても仕方ない。
支配人だけに任せておけない。
現状を打破しないと!
ふんすっと意気込めばクスッと笑い声が聞こえてくる。
いつの間にか職場に着いていたみたいで、その声の方に顔を向ければにっこりと人当たりのいい笑顔がそこにあった。