第12章 ※長州緋桜
どのくらいそうしていただろう、何度目かの振り子の音がボーンボーンと、聞こえてきた時、軋む床の音がこちらに向かってくるのが分かった。
スパーンと、襖が開く。
「芽李か…?」
耳を触るその声に、さっきまで落ち着いていたはずの心臓が、また大きくなり出す。
「見違えたよ!綺麗になったじゃないか!」
…すっかり、忘れていた。
忘れようと、蓋をしようと、思い出さないように、奥底にしまっていたのに。
「父さんに聞いた時は、まさかと思ったんだ!会いたかったよ!!」
こわくて、
こわくて、
こわくて、
あ、
そっか、
わたし…、
キーンと耳鳴りがして、走馬灯のように今まで蓋をしていた記憶が溢れ出す。
こんな時に、いつだって足が動かない。
まるで重い、重い、足枷がつけられてるみたいだ。
ガシッと肩が掴まれ、組み敷かれる。
一瞬の出来事で、自分でも何が起きたかわからない。
骨が軋みそうなほど、強い力だと言うことだけは分かった。
その指には、指輪がはまっている。
「話を聞いた時は、残念だって思ったんだ!あの頃は、勢いであんなことしてしまった!と思ったけど、こんなに綺麗になるんだったら、うなづけるよ!」
…っ、!
「結婚すると聞いた時は、悔しかったけど、その前に味見するのもいいかなって思って、帰ってきたんだ!!」
ひゅっと、喉が鳴る。
…やっぱり、かわってない。
なにも、変わってない。
「なにをしている!!」
「父さん?!」
仁王立ちで、入口に立つその"親戚"。
「こいつは、大事な取引につかうんだぞ!お前は、そんなこともわからないのか!!」
その大きく怒鳴る声に、体の上から重さが退く。
「明日は大事な顔合わせなんだぞ!
芽李も恥を知りなさい!!早く部屋に戻りなさい!用意したと言っていただろう!
全く、本当に使えない娘だ」
理不尽な罵声に、体を震わすことすらできずに、“用意された部屋"に赴く。
真っ暗で、埃臭くて、狭い。
ぱちっと電気をつけても、薄暗くて。
そう、だ。
こんなものだった。