第12章 ※長州緋桜
「お金なら、もう十分にお返ししたはずです」
「貸し借りの時は、かならず"利子"が発生する。そう言う物だろう?」
「利子…」
「君はこの家にいるのが嫌らしいからな。何もここで、奉公しろとは言わない。」
「…」
「私の古い友人の息子に、君のことを話したら是非娶りたいと言うんだ。
こちらに、援助もしてくれるという。いい話だろう?君もそれぐらいの歳になったんだ。君にとってもいい話のはずだが?」
"娶りたい" ?
“いい話" ?
「だから、…帰ってこいって、」
「向こうさんも、来年の春まで待つように伝えたら、大変残念がっていたけどね。
それでも、いいと。いい返事をくれたよ。本当に、私のように慈悲深いと思わないかね」
「わたしは、その方に面識などございませんが、どうして、わたしを?」
「さぁな。物好きもいた物だとは思ったが、……まぁ、まだ君に使い道があったんだと、私も安心したよ。
試しに、同棲してみないかっていうことになってね、明日さっそく顔合わせだ」
全身の血の気が、ひいてくのがわかる。
指先はもう冷たいのに、背中には汗が伝う。
ぐるぐると、目が回りそうだ。
「話が、ちがうじゃないですか、今回は、話だけって、」
「あぁ。"結婚の話"が春先まで伸びたって言う話だ」
こうなるかもしれない、って、分かってたはずなのに。
もう帰れないかもしれないって、思ってたはずなのに。
「話は終わりだ、…逃げ出してもいいが、わかっているね?今日は、うちに泊まるといい。君たちが使っていたあの部屋を、開けてある」
そう言って、私を部屋に残し親戚は出て行った。
とおざかっていく、廊下の軋む音。
"お互いに納得のいくまで"
そう心に決めてきたくせに、向こうの主導権で終わった。
咲に、絶対帰るって言ったのに、
「さく…」
写真に閉じ込められた咲。
こんなにいっぱい…。
さっきまで晴れていたはずの空が、慰めるように雨を降らす。
臆病な私は、携帯の電源を入れることすらできない。
入れて仕舞えば、きっと、助けを求めてしまうから。