第12章 ※長州緋桜
「さぁ、おあがんなさい」
その言葉に従って、一歩中に踏み入れれば、もう二度とこの門の外に出られないかもしれない。
中に入ると、するっと私の脇を通り抜けて、親戚はがじゃんと大きな音を立てて門を閉める。
出られないことを、肯定するように。
「素直に来てくれて、よかったよ。もう少し遅ければ、こちらから出向くつもりだったからね」
…そうならなくて、よかった。
中に入ると、あの頃よりも物が少なく、広くなってる気がする。
「そう、ですか。あの、それで、お願いっていうのは?」
「まぁ、そう焦らずとも。さぁ、お座りなさい」
通された部屋には、無表情な先祖の顔が天井付近の壁に貼り付けられていて、私を睨んでるみたいにも思える。
…なんて、気にしすぎか。
座るように促された場所に、当然座布団なんてあるはずもなく、むこうは座椅子に腰掛けている。
「…」
「私は、幼い君たちを引き取って、成長を見守ってきた。学校にも行かせてやった。亡くなってしまった、君のご両親の代わりに」
「はい、」
「私にも家族がいるのにも、"かかわらず" だ。慈悲をかけてやったのに、君は、あの大家の男の言いなりになってこの家を出た」
「…っ、」
「それでも、私は大目に見てやった。"咲也" くんのことだって、結果、いい方向にいっただろ。
君はあの日、私たちに噛み付いたが」
そう言って出してきたのは、見慣れたフライヤー。
手を伸ばそうとすると、勢いよく引き抜かれる。
「君の弟、咲也君は今役者をやっているらしいな。他にも、」
バサバサと、茶色い紙袋から出てきたのは、隠し撮りされたような、咲の写真だった。
「これは、」
「君は、弟を探していたよな」
「…」
「それとももう、必要ないかな?」
どくん、どくんと、心臓が嫌な音を立てる。
目の前で一枚、徐に持ち上げた写真は、遠い昔の咲の写真だった。
小さい頃、シャッターを見つめて、にっこり笑った咲が手を伸ばしている写真だ。
見せつけるように、それを真ん中から引き裂かれていく。
「待ってください!」
亀裂が、咲に入る前に引き留める。
「君の返事次第だ」
「何をしろって、言うんですか、」
「少々、事業が失敗してね」
「お金、ですか?」