第12章 ※長州緋桜
翌日。
「芽李さん、今日は行かないんですか?」
「差し入れ、間に合わなくて。できたら向かうから、夏組のみんなによろしく言ってて」
春組の学生たちは、今日も夏公演に行くようで。
「なんか、すごい量っすね」
「まぁね、夏組のみんな労わないとだし、今日の夜軽く打ち上げでもしたいなぁって。2日目だけどね。」
「なるほど」
「綴君、いきますよー!」
玄関から咲の、声がする。
言わないと、
咲に、ちゃんと言わないと。
「芽李さん?!ちょっと、火!あぁー!もー!」
綴くんの引き留める声を、背中で聞いて、咲と向き合う。
ごめん綴くん。
「咲、」
「芽李さん?」
玄関の段差で、目線が同じくらいになる。
「いっかい、ぎゅってさせて」
「は?え?、はい、」
他のみんなが、ドアの向こうにあることをいいことに、ぎゅっと咲也を抱きしめる。
「約束、」
「え、」
「"絶対"帰ってくるから、…待ってて」
「…っ、どこか、いくの、」
「帰ってきたら、今度はちゃんと話聞くね。夏組の公演は、作り終わったら、行くから、まってて」
そして、離す。
咲の、揺れた瞳。
「おねぇちゃ…」
ずるい私はまだ、ちゃんと聞けなくて。
そっと、咲の口を隠す。
咲がやんわりとその手を解かせて
ゆっくりと笑う。
「わかりました。待ってますから、今度はちゃんと」
「サクヤとツヅル何してるネ」
「あれ、芽李も、もう準備できたの?」
「ったく、芽李さん、火止めてから行ってくださいよ!全く!」
「アハハ、ごめんごめん。もう少しかかるからさき行ってて。みんな気をつけていってらっしゃい」
…この玄関から、みんなを見送るのはしばらく見納めだな。
見送った後、最後の支度にかかる。
思えば作り置き、ほぼみんなの好物になってしまった。
ハンバーグに、オムライス用のケチャップライス、肩焼きそばに、生春巻き、ピザにおにぎり、…
あとは、ナポリタン。
「ふふ、主食ばっかり」
…まぁ、それ以外もたくさん作ったけど。
カレーだけだと偏っちゃうし。
冷凍保存できるものは冷凍庫にしまって、干してた洗濯物もたたんで、最後まで家事を終わらすと、休む間も無く、戸締りをする。