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3月9日  【A3】

第12章 ※長州緋桜


 「さっきのお前、かっこよかったよ」
 「やめてよ、恥ずかしい。至さん、ほらいきますよ。夏組初日、本格的にスタートなんだから。あの記者たち吠え面かけばいいのよ」
 「芽李さん、世間に見せられない顔になってるから、すまーいる」

 俺のように、と、にっこり笑った至さん。
 完璧な作り笑顔だったけど、ふいをつかれて笑ってしまった。

 「すきだ」
 「え?」
 「あー、すきだらけって話。はよいこ」

 ぐいっと抱きしめられるわけでもなく、手を引かれ、春組のみんなが集合している場所に合流する。

 「まったく、どこいってたんすか」

 なんて、いつも通りに綴君に言われて、苦笑いで返す。

 「まぁ、いつものことっすけど。はじまりますから」

 ちょうどいいタイミングで、場内アナウンスが鳴って、ブザーが鳴って、音楽が流れて、幕が開く。

 どうか、神様。

 もしあなたが本当にいるなら、天馬君を、みんなを見捨てないでください。

 祈るような気持ちで、舞台に視線をおくる。














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 初めのうち、ぎこちなさはあったものの、ゲネと比べものにはならないほどの出来だった。

 天馬君のフォローも、うまく行ったおかげで後半からは、だいぶいいペースだった。

 これから、

 これからのスタートだ。

 「お疲れ様、みんな!」

 初日の幕が閉じる。
 大盛況で、カーテンコールも凄かった。

 お客さんも、喜んでた。

 みんなの顔も、凄く凄くキラキラして、
 だから、

 尚更、守らなきゃって、

 思った。

 「いづみちゃん、ちょっといい?」
 「なぁに?」

 夏組の全公演が終わってしまったら、次は秋組の準備が始まるから。

 タイミングとしたら、今だ。


 夏組の千秋楽には戻って来られるように、きっと彼らなら…

 “大丈夫"
 
 なんて、

 そんなの当たり前だ。

 私がいなくとも、物語は進むんだから。
 みんなは、ちゃんと出来るんだから。

 「夏組の公演中だし、迷ったんだけど…
 もうすぐ、私の両親の法事があってね。その前に一旦帰ってくるようにって、言われてしまって」
 「え?!それは大変だ」
 「夏組のみんなも、初日見たら安心したし、千秋楽までには戻ってくるから、帰ってもいいかな?」

 
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