第12章 ※長州緋桜
「さっきのお前、かっこよかったよ」
「やめてよ、恥ずかしい。至さん、ほらいきますよ。夏組初日、本格的にスタートなんだから。あの記者たち吠え面かけばいいのよ」
「芽李さん、世間に見せられない顔になってるから、すまーいる」
俺のように、と、にっこり笑った至さん。
完璧な作り笑顔だったけど、ふいをつかれて笑ってしまった。
「すきだ」
「え?」
「あー、すきだらけって話。はよいこ」
ぐいっと抱きしめられるわけでもなく、手を引かれ、春組のみんなが集合している場所に合流する。
「まったく、どこいってたんすか」
なんて、いつも通りに綴君に言われて、苦笑いで返す。
「まぁ、いつものことっすけど。はじまりますから」
ちょうどいいタイミングで、場内アナウンスが鳴って、ブザーが鳴って、音楽が流れて、幕が開く。
どうか、神様。
もしあなたが本当にいるなら、天馬君を、みんなを見捨てないでください。
祈るような気持ちで、舞台に視線をおくる。
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初めのうち、ぎこちなさはあったものの、ゲネと比べものにはならないほどの出来だった。
天馬君のフォローも、うまく行ったおかげで後半からは、だいぶいいペースだった。
これから、
これからのスタートだ。
「お疲れ様、みんな!」
初日の幕が閉じる。
大盛況で、カーテンコールも凄かった。
お客さんも、喜んでた。
みんなの顔も、凄く凄くキラキラして、
だから、
尚更、守らなきゃって、
思った。
「いづみちゃん、ちょっといい?」
「なぁに?」
夏組の全公演が終わってしまったら、次は秋組の準備が始まるから。
タイミングとしたら、今だ。
夏組の千秋楽には戻って来られるように、きっと彼らなら…
“大丈夫"
なんて、
そんなの当たり前だ。
私がいなくとも、物語は進むんだから。
みんなは、ちゃんと出来るんだから。
「夏組の公演中だし、迷ったんだけど…
もうすぐ、私の両親の法事があってね。その前に一旦帰ってくるようにって、言われてしまって」
「え?!それは大変だ」
「夏組のみんなも、初日見たら安心したし、千秋楽までには戻ってくるから、帰ってもいいかな?」