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3月9日  【A3】

第11章 染井吉野


 「監督も、ゲネお疲れ様」
 「うん、芽李ちゃんも」

 横を通り抜けた監督の背中も少し小さく見える。

 私は、やっぱり何もしてあげられない。
 力不足で、もどかしい。

 「芽李」
 「至さん」
 「お前がそんな顔してて、どーすんの。」
 「え?あぁ…」

 そうだよね、舞台に立ってない私が…。

 「芽李がさ、ごはん作っておかえりって言ってくれるだけで、魔法みたいに元気でるんだよ。他のみんなだって、だから安心してここに帰ってこられるんだ。」

 切り替えようと、顔を俯かせると至さんが慌てていってくる。

 「舞台から降りたあとの異常な高揚感とか、不安とか疲れとか、そういうの忘れて自分にちゃんと帰ってこられる。」

 最後まで聞いてみたいっておもったから、わざとこうして聞くなんて多分私ってタチが悪い。

 「それって、凄いことだからね?だから、お前がそんな顔してたらみんな迷っちゃうよ。…って、勘違いしないでほしいのは、いつも元気でいてほしいとかそういうことじゃなくて、元気であるに越したことはないんだけど、無理に明るく振る舞えとはいわないけど、いつも無条件に俺らを信じてくれるお前がいるから、ここがうまく回ってるっていうか、だから、…」

 至さんがこんなに必死でいうの、ゲームと推しを語る時くらいって思ってたんだけどな。

 「ありがとう、」

 早口で真っ直ぐな言葉に、私ちょっと救われた。

 「そーだよね、気落ちしてらんないや!わたし、お世話がかりだし。みんなが安心して板の上に立てるように、ちゃんと帰れる場所作っておかないとね!」
 「うん」

 フワッと笑った至さんにつられて、私もやっぱり元気が出てきて、

 「そうとなったら、みんなに負けじと腹拵えしないと。」

 ぐいっと至さんの手を引いて、リビングに戻ると携帯をいじっていたかず君を囲むようにして、みんなが俯いていた。

 その中に、いつものオレンジが見えなくて、

 「天馬くんは?」

 隣にいた咲に聞くと、顔を俯かせてしまった。

 「…ミーティングもしなくていいって、今出ていった。
 監督もそれを追っていった」

 こちらを見ずに淡々と語る幸くん。

 「そっか、…みんなはご飯食べたの?」
 「うん」
 「はい」
 「食べたよ〜」
 「…オレ、余計なもの見せちゃったかな」
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