第11章 染井吉野
「監督も、ゲネお疲れ様」
「うん、芽李ちゃんも」
横を通り抜けた監督の背中も少し小さく見える。
私は、やっぱり何もしてあげられない。
力不足で、もどかしい。
「芽李」
「至さん」
「お前がそんな顔してて、どーすんの。」
「え?あぁ…」
そうだよね、舞台に立ってない私が…。
「芽李がさ、ごはん作っておかえりって言ってくれるだけで、魔法みたいに元気でるんだよ。他のみんなだって、だから安心してここに帰ってこられるんだ。」
切り替えようと、顔を俯かせると至さんが慌てていってくる。
「舞台から降りたあとの異常な高揚感とか、不安とか疲れとか、そういうの忘れて自分にちゃんと帰ってこられる。」
最後まで聞いてみたいっておもったから、わざとこうして聞くなんて多分私ってタチが悪い。
「それって、凄いことだからね?だから、お前がそんな顔してたらみんな迷っちゃうよ。…って、勘違いしないでほしいのは、いつも元気でいてほしいとかそういうことじゃなくて、元気であるに越したことはないんだけど、無理に明るく振る舞えとはいわないけど、いつも無条件に俺らを信じてくれるお前がいるから、ここがうまく回ってるっていうか、だから、…」
至さんがこんなに必死でいうの、ゲームと推しを語る時くらいって思ってたんだけどな。
「ありがとう、」
早口で真っ直ぐな言葉に、私ちょっと救われた。
「そーだよね、気落ちしてらんないや!わたし、お世話がかりだし。みんなが安心して板の上に立てるように、ちゃんと帰れる場所作っておかないとね!」
「うん」
フワッと笑った至さんにつられて、私もやっぱり元気が出てきて、
「そうとなったら、みんなに負けじと腹拵えしないと。」
ぐいっと至さんの手を引いて、リビングに戻ると携帯をいじっていたかず君を囲むようにして、みんなが俯いていた。
その中に、いつものオレンジが見えなくて、
「天馬くんは?」
隣にいた咲に聞くと、顔を俯かせてしまった。
「…ミーティングもしなくていいって、今出ていった。
監督もそれを追っていった」
こちらを見ずに淡々と語る幸くん。
「そっか、…みんなはご飯食べたの?」
「うん」
「はい」
「食べたよ〜」
「…オレ、余計なもの見せちゃったかな」