第11章 染井吉野
「これが現実ってことでしょ。だから、アイツも…」
「現実かもしれないけど、でも、幸くんのフォローとかちゃんと良かったよ。練習、したからでしょ。
今日が千秋楽じゃないよ、ゲネなんだからこれから何公演もあるんだから、いくらでも挽回できるよ」
「そんな簡単に言わないでよ!」
幸くんを俯かせてしまった。
「簡単に、…言わないで」
「簡単に、言ってない。
信じてるからいってる。みんなの練習見てきたから言ってる。
確信してる。
だって、みんなが言ってたんだよ!夏組最高って!」
「…」
「確かに、天馬くん今日調子悪かったかもしれない。
天馬くんがもし今日のことで俯いてるなら、諦めてしまうかもって思ったなら、みんなが照らしてあげてよ。
太陽みたいなみんなが、板の上で。
私には絶対できないことだから、無責任なこと言ってるってわかってる。」
俯きながら、みんな何思ってる?
「でも、まぁ天馬くんは諦めてないと思うけどね」
「え?」
「今日の失敗で、諦めるほど天馬くんの意志は弱くないよ。ここで折れるなら、みんなの仲間になんて絶対なってない。
今までの天馬くんとみんなを見てたらわかるよ。ここぞって時にちゃんと踏ん張れるリーダーだから、みんなついていこうって思ったんじゃないの?」
ハッと顔をあげた、夏組のみんなの顔をみたら、もう大丈夫って思った。
誰かともなく、それぞれ立ち上がり走り出していく。
「…若いね」
ボソッと呟くと、ポンッと肩に手が乗る。
「説教じみちゃった、へへ」
「よかったんじゃないっすか?」
「暑苦しい」
「ま、芽李らしくていいんじゃないの?」
「カッコよかったヨ」
「夏組の初日、楽しみになりましたね!」
夏だけじゃない、春のみんなも最高だ。
…MANKAIカンパニーが、最高なんだ。
「やっぱり、大好きだなぁ」
「芽李さんらしいっすね。」
「ついに、俺を夫にする気が出てきた?」
「イタル、抜け駆けよくないヨ。ツヅル、逮捕ネ」
「俺は監督の夫になりたい」
「え?真澄くん!?」
監督を今更ながらに追っていく真澄くんと、それについてく咲。
稽古をしていたという夏組のみんなが戻ってきたのは、それから何時間かしてからだった。