第11章 染井吉野
『ここまで引き伸ばしたけど、もうどうしようもないし、王のハーレムに入るしかないわ』
「お前ーー」
グッと心臓が掴まれるようなそんな感触。
良いもんじゃない、苦しくて寂しくなるような感覚。
天馬くんの表情も心なしか険しく見える。
今すぐ舞台に駆け出して、助けてあげたい…、
『びっくりした?まぁ、しょうがないわよね』
幸くんの凛とした声が響く。
そうだ、舞台に立っている限りは役者同士で助け合うしかないんだから…。
『もういいの。あんたも私のことは気にしないで。』
幕が降りて、ザワザワする報道陣。
決していい反応じゃない。
「好き勝手言いやがって。1人ずつ殴ってやりたい」
「芽李ボソッとでも聞こえてるから、そんな闘牛みたいな目で見てないで俺らはどうフォローするか考えないと」
至さんに、ぽんっと背中を叩かれ促される。
わかってる、分かってるけど…
天馬くんが舞台に立とうとした理由がこれなら、あまりにも痛い仕打ちだ。
だって、あんなに練習したのに…
「でも、幸凄かったっすね。」
切り替えるように言った綴くん。
そっか、そうだよね…。
「うん、…夕飯にプリンつけてあげよう」
「オレも手伝います!」
「うん、ありがとう。」
そうだ。
みんなが元気になれるように、私は私が出来ることしか出来ないんだから。
「楽屋よってく?」
「あー…んーん、夕飯の準備とお風呂の用意しておく。買い物もしないとだし。」
「伝言は?」
「お疲れ様でしたって。美味しいの用意して待っておくからって、…いづみちゃんにも。」
「了解、俺の夜食の準備もお願いね」
「全く、ちゃっかりしてるんだから。」
楽屋に向かう組と、寮に帰る組に分かれる。
「咲と、綴くんは行かなくてよかったの?」
「大丈夫です、寮に行ったらいくらでも話できるし」
「オレも、みんなのこと労うお手伝いしたいです。」
「…そっか、ありがとう。」
三人で帰った寮は、誰もいないから当たり前に静かで。
2人がついてきてくれなかったら、私1人で待ってなきゃいけなかったんだ。
「1人じゃなくて良かったかも…」
「え?」
「芽李さん?」
「ううん、なんでもない。」
春組の時はこんなこと思わなかったのにな…。