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3月9日  【A3】

第11章 染井吉野


 『ここまで引き伸ばしたけど、もうどうしようもないし、王のハーレムに入るしかないわ』
 「お前ーー」

 グッと心臓が掴まれるようなそんな感触。
 良いもんじゃない、苦しくて寂しくなるような感覚。

 天馬くんの表情も心なしか険しく見える。

 今すぐ舞台に駆け出して、助けてあげたい…、


 『びっくりした?まぁ、しょうがないわよね』


 幸くんの凛とした声が響く。
 そうだ、舞台に立っている限りは役者同士で助け合うしかないんだから…。


 『もういいの。あんたも私のことは気にしないで。』


 幕が降りて、ザワザワする報道陣。
 決していい反応じゃない。

 「好き勝手言いやがって。1人ずつ殴ってやりたい」
 「芽李ボソッとでも聞こえてるから、そんな闘牛みたいな目で見てないで俺らはどうフォローするか考えないと」

 至さんに、ぽんっと背中を叩かれ促される。

 わかってる、分かってるけど…

 天馬くんが舞台に立とうとした理由がこれなら、あまりにも痛い仕打ちだ。
 だって、あんなに練習したのに…

 「でも、幸凄かったっすね。」

 切り替えるように言った綴くん。
 そっか、そうだよね…。

 「うん、…夕飯にプリンつけてあげよう」
 「オレも手伝います!」
 「うん、ありがとう。」

 そうだ。
 みんなが元気になれるように、私は私が出来ることしか出来ないんだから。

 「楽屋よってく?」
 「あー…んーん、夕飯の準備とお風呂の用意しておく。買い物もしないとだし。」
 「伝言は?」
 「お疲れ様でしたって。美味しいの用意して待っておくからって、…いづみちゃんにも。」
 「了解、俺の夜食の準備もお願いね」
 「全く、ちゃっかりしてるんだから。」

 楽屋に向かう組と、寮に帰る組に分かれる。

 「咲と、綴くんは行かなくてよかったの?」
 「大丈夫です、寮に行ったらいくらでも話できるし」
 「オレも、みんなのこと労うお手伝いしたいです。」
 「…そっか、ありがとう。」

 三人で帰った寮は、誰もいないから当たり前に静かで。
 2人がついてきてくれなかったら、私1人で待ってなきゃいけなかったんだ。

 「1人じゃなくて良かったかも…」
 「え?」
 「芽李さん?」
 「ううん、なんでもない。」

 春組の時はこんなこと思わなかったのにな…。
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